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【講演】 脳卒中にならないために
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三原千恵 三原 千恵  中国労災病院 脳神経外科

 わが国において、悪性腫瘍、心疾患についで主要な死亡原因となっている脳卒中は、年々増加しており医療的にも社会的に重大な問題となっています。 脳卒中は、医学的には脳血管障害、脳血管疾患と呼ばれ、大きく分けて出血を起こすものと血管がつまるものがあります。

出血を起こすのは主に「くも膜下出血」と「脳出血」です。 くも膜下出血は脳の血管に原因不明の瘤(脳動脈瘤)が突然破れて出血お起こす怖い病気です。約半数が死亡し、 残りの約1/4が寝たきりになったり半身不随(片麻痺)などの後遺症を残し、以前と同じ生活ができるようになる人は1/5くらいしかありません。 この病気はもともと脳動脈瘤を持っている人に起こるのですが、通常動脈瘤の症状はありません。 つまり、瘤が破裂して出血を起こして、激しい頭痛や嘔吐を生じてから初めてわかるのです。 ということは、くも膜下出血を防ぐためには、事前に動脈瘤を探すことが大切です。私たち日本の脳神経外科医は、 「脳ドック」という脳の健診システムをつくり、症状のない人達を検査することによって、脳動脈瘤を発見できるよう努めています。 中国労災病院でも健診センターで「脳ドック」の申し込みができますので、ご希望の方は是非ご相談ください。 次に、脳出血の原因ですが、一般によく知られているように、高血圧のある人に多いといわれています。 しかし、ただ「血圧が高いから血管が切れる」という簡単なメカニズムではなく、基盤に動脈硬化が関係しています。 動脈硬化についてはつぎの脳梗塞で述べましょう。

血管がつまる脳梗塞には、比較的細い血管がつまる「脳血栓」と、心臓などからの栓子が大きい血管につまる「脳塞栓」があります。 脳血栓は動脈硬化によって血管が細くなり内腔がつまるといわれています。動脈硬化を進行させる危険因子としては、年齢(高齢化)、 生活習慣病(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症など)、生活習慣(肥満、喫煙、飲酒、ストレスなど)が重要視されています。 つまり喫煙や飲酒によって動脈硬化が促進され、脳の血管がつまれば「脳梗塞」、切れれば「脳出血」となるわけです。 動脈硬化の危険因子についてまとめると、男性、喫煙、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、肥満などが報告されています。 肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症は、動脈硬化を介して脳卒中や心筋梗塞を高率に起こすことから「死の四重奏」といわれ、 健康診断でこれらのうち3つが発見された勤労者に対しては、平成13年度より厚生労働省が精密検査の費用を給付する制度を実施しています。
 生活習慣のうち、皆さんが気になるのは喫煙と飲酒ではないでしょうか?喫煙や飲酒によって動脈硬化が促進され、 脳の血管がつまれば「脳梗塞」、切れれば「脳出血」となるわけです。さらに、喫煙が血管に及ぼす影響はほかにもあります。 喫煙するということは呼吸で吸い込む空気に煙が混ざるので、酸素濃度が薄くなります。メキシコなどの高地に行くと息が切れますが、 高いところでは酸素濃度が薄いので、酸素欠乏によって息が苦しくなるのです。習慣的に喫煙する人は慢性的な酸素欠乏状態といってもよく、 まさに喫煙することによってメキシコにいるのと同じ状態になっているのです。人間が必要とする酸素量は各人の運動量によって決まっていますので、 体の方は何とかして中に入ってくる酸素の量を増やそうとする働きが生じ、酸素を運搬する赤血球の数が増えて「多血症」になり、 検査ではヘマトクリット値やヘモグロビン値が高くなります。俗にいう「血が濃くなってドロドロ」の状態になるのです。 一方、飲酒もアルコールに利尿作用があるため、水分が失われて脱水の状態になります。やはり習慣的に飲酒していると、 慢性の脱水状態となり、「血が濃くなってドロドロ」になるのです。脳の動脈は枝分かれするごとに細くなって毛細血管となり、 脳細胞に酸素・栄養物を運んでいます。この毛細血管の太さは数ミクロンで、赤血球1個がようやく通れるくらいの太さしかありません。 ここで皆さんも容易にご理解できると思いますが、狭い毛細血管を「濃くなってドロドロの血液」が流れるので、 つまりやすくなります。しかも長期間にわたって喫煙・飲酒してきた人の血管は、動脈硬化が進行して、固く細くなっているため、 余計につまりやすい状態になっています。そのうえ(とどめを刺すようで悪いのですが)、タバコに含まれるニコチンなどの成分は、 自律神経を介して血管を収縮させるのである。また、現在メンタルヘルスの面からも問題になっているストレスがかかると、 自律神経の緊張が高まって血管の収縮が増強されるのです。もうこれでは血管につまってくれというようなものではないでしょうか。 個人的には酒やタバコに何の恨みもありませんが、飲酒や喫煙によるこうした生体反応の流れをみると、 仕事でストレスがたまった状態での飲酒や喫煙は二重、三重に脳や心臓の血管をいじめていると感じられます。 皆さん、それでも酒とタバコは止められませんか???
講演当時の役職です)

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