トップページへ
【講演】 暮らしの中のリハビリテーション
トップページ第8回講演会>【講演】暮らしの中のリハビリテーション

山本 義彦 山本 義彦  大谷リハビリテーション病院

 暮らしの中のリハビリテーション( 以下リハビリ) ということで、最近はリハビリを取り巻く環境もかなり変わっているようです。 第1 に人口の高齢化、2 番目に疾病構造の変化、病気の中味が変わってきていること。3 番目は2000 年すなわち、 平成12 年4 月に介護保険制度が導入されたことです。4 番目に在宅ケアに重点が置かれるようになったことなどが挙げられます。 これらが大きく変わってきた点だと思います。1 番目の人口の高齢化ですが、これはいかなる国も経験したことのない速度で超高齢化社会へ進んでいるということです。 65 歳以上の高齢者が日本の総人口に占める割合は今年は約20% と過去最高を更新したということです。 ちなみに約2,430 万人で「5 人に1 人」が65 歳以上ということだそうです。65 歳以上を高齢者とするのもどうかとは思いますが、 皆んなが元気が無くなる訳じゃないですし、見直しが必要になってくるのではと思います。2015 年には26% になる見込みで 「4 人に1 人」が65 歳以上の高齢者になると予測されます。当然のことと思いますが高齢障害者も増えると考えられます。 2 番目に、疾病構造の変化すなわち病気自体が慢性疾患であるとか成人病、生活習慣病と呼ばれるように、これらの病気が多くなったということです。 中年期以降に罹患する頻度が高い癌であるとか、脳卒中、糖尿病、心臓病、高血圧等、非感染性のものをいいますが、 これらは一旦病気になると、障害も重度、重複化して大変厄介になってきます。その結果、高齢障害者と並んで介護を必要とする人が増加するということです。 3 番目に平成12 年4 月に介護保険法が施行されたことです。これは保険者は住民に一番近い行政機関である市町村と特別区で、 保険給付内容としては要介護認定を受け、要介護、要支援と認定された者のみが給付の対象になっていることと、 保険料の徴収方法はそれぞれ年金であるとか給料から各市町村の介護保険特別会計に納めるようになっていて、 被保険者は40 歳以上を言い、65 歳以上を第1 号、40 歳以上64 歳までを第2 号被保険者とし、年齢によって区分していて、 また国、都道府県、市町村からの支援も大切な構成要素の一つです。要するに介護保険というのは 「介護の社会化すなわち要介護者を家族だけでなく社会全体でお世話しようというものである」ということです。 4 番目に病院における平均在院日数が外国に比べ長かったのが、特に急性期病院において短縮されるようになったこともあげられます。 それでも平均入院日数はアメリカに比べてまだ約4 倍以上が現状です。オーストラリアは4 日から5 日といわれています。 ベッドの機能分化、急性期を担う一般病床の減少、それに伴う入院日数の短縮、介護保険施設の増加、 また在宅ケアを充実して行く、いわゆる病院、施設ケアから在宅ケアへという流れも挙げられると思います。
 それでは、話は変わって先ほどから何回も出ていますが、まずリハビリテーションという語源についてお話をしたいと思います。 これはこんなスペルで、こんな風に分けることができます。
 Re−habilis−ation 。Re は「再び」でhabilis は「適した」とか、「ふさわしい」という意味でation は「なになにすること」という意味です。 すなわち「再びふさわしい物にすること」とか、「再適応」という意味です。中世ヨーロッパ以来「身分」、 「地位の回復」などの意味で使われ、また人間としての「権利、尊厳、資格、名誉の回復」また「全人間的復権」とも訳されています。 「つまり再びその人らしく生きる権利の回復」といえます。それから「ノーマライゼーション」という言葉があります。 これは「すべての人が当然持っている普通の生活を送る権利を出来る限り保障することである」ということです。 つまり障害のある人であっても、障害のない人と同じ機会をもつべきである。「普通の社会をつくろう」という運動です。
 1959 年デンマークのバンク・ケルセンによって知的障害者を対象に提唱された言葉です。デンマークではこの言葉が普通になっていて、 もう忘れられた言葉かも知れませんが、ようやくわが国にもこの言葉が知られるようになりました。 つまりリハビリテーションは病人を病人として観ているのではなく病気を持ち障害を持った人がそれでも普通の人として暮らしていくんだというプロセスを担うところで、 病人ではなく普通の人になってもらう所、普通の生活に限りなく近いものを再現するということになるのではないかと思います。 それではそんなリハビリテーションがどのような職種で構成されているのか簡単にご説明したいと思います。 リハビリテーションはチームで行うもので、医師を中心に薬剤師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、看護士(Ns)、 臨床心理士(CP)、義肢装具士、ソーシャルワーカー(SW) などで構成されています。 お互いがそれぞれの仕事の内容を理解してスタッフ全員で高い目標を実現させようと日々頑張っています。 全ての職種が非常に大切ですが、特に医師の役割はきわめて重要であり、疾患の診断、障害の総合的評価に基づいて予後を立て、 他の職種の必要性を判断しそれらに対して処方をする。また患者、家族に医学的な説明をし地域社会への復帰までの全経過を管理する。 さらに医師はリハビリテーションのチームリーダーとしてリーダーシップを発揮するということです。他の職種については今回は省略させて頂きます。
 それでは次にリハビリテーションの流れについて説明をさせていただきます。急性期、回復期、維持期に大きく分けることができます。 最近、厚生労働省は、健康増進、発病予防の為のリハビリテーションを急性期の前に、 また維持期の後に人間の人間が尊厳を持って一生を終えることが出来る終末期リハビリテーションの重要性も唱っています。 話は元に戻って急性期リハというのは発生直後の超早期から開始すること。テレビでER というのがありますが、エマジェンシイ・ルームでのリハビリ、 すなわち救急車で入院した時から始まるリハビリと考えられたらいいでしょう。手術が終わったその日から始めるリハビリの事です。 もちろん生命維持の為にたくさん管がついた時から行うことがあります。少々痛みを伴う事があるかもしれませんがこの時期にしっかりリハビリをしておく事が後になって回復が早くなるのです。 約1〜2 週間で長くても1 ヶ月くらいを限度として次のステップに移って行きます。しかし、実際には発症直後からのリハビリテーションシステムが整備されている医療機関は少なく、 病状が安定してからという考え方がいまだに根強いことや、またシステムとして確立しにくいことなどが挙げられます。 したがって、この時期に廃用症候群をきたしてしまう例が多いのが現実である。この廃用症候群というのは、 難しい言葉かも知れませんが、人間の体は使わないと身体的にも、精神的にも機能の低下が生じるということです。 長い間、安静や寝ていると廃用が起こりやすいということです。寝たきりの原因になるものです。出来る限り廃用症候群をおこさせない様にしなければなりません。 では生命の危機から脱し、病気自体は治り急性期病棟の治療が終わった、でも歩くことが出来ないなど、 障害が残ったときに次の段階として回復期リハビリテーションがあります。機能回復に最重点が置かれる時期でもあり、 多様なリハビリテーションプログラムを実施する必要性があり、集中的な治療を提供する時期です。 約3〜6 ヶ月を限度に次のステップに移ります。ここである程度回復され、目標達成出来たら、次の維持期リハに移る訳ですが、 これは必ずしも病院で行う必要はなく施設や自宅に帰ってからのリハビリをいいます。維持期の前に必要であれば介護認定をして頂くこともあります。 介護認定を受けて、要支援、要介護と認定された場合には色々なサービスを受けることが出来ます。サービスには在宅介護と施設介護があります。 どれを使うかは本人と居宅介護支援専門員、いわゆるケアマネージャーが決めることです。この維持期におけるリハビリテーションが最も大切になってくると思います。 維持期においては地域におけるリハビリテーションも大切で、定義として、障害のある人や高齢者が住み慣れた環境で一生安全にいきいきと生活が送れるように医療、 保健、福祉がリハビリテーションの立場から協力しあって行なう活動の全てをいう。 こういった流れがどこの地域に行ってもきちんと出来ていれば理想的な地域リハビリの流れになり、 すべての人達が納得するサービスを受けられる様になってくると思います。各地域におけるリハビリの普遍化こそが地域リハビリテーションです。 それではここで当院で行なっているサービスのひとつに訪問リハビリテーション( 以下訪問リハビリ) があります。 訪問リハビリの目的は廃用症候群の予防、改善。日常生活動作の維持、改善。福祉用具や住環境整備。閉じこもりの解消。 精神的サポート等が挙げられます。ここにある目的の住環境整備ですが、これは家屋改造のことで自宅に居ても生活し易いようにした環境のことで、 特に移動に関して歩行時に転倒しない、させないという目的で少しでも安全に移動出来る様に室内外をバリアフリーにするとか手摺を設置したりすることです。 転倒すると即骨折に結び付くこともあります。転倒は障害のある人、あるいは、ない人でも加齢によって歩きにくくなることがあります。 これは例えば生活様式の変化、つまり布団からベッド、和食から洋食という様に和式から洋式に生活様式が変わったことが挙げられると思われます。 原因としては下肢筋力や、バランス能力の低下等があります。住宅内外の環境整備問題があります。 これらの改造を行なうことにより転倒、転落を防止しています。バリアフリーに異論を唱えられる方もおられますが、 これはやはり必要に応じて行なわなければならない時もあると思います。それから、こういった家屋の改造、 全ての症例に行なうのではなく、まず第一に機能回復のためのリハビリを行い、回復が困難な場合、 どうしても自宅に帰って事故の予防のために、これだけはあった方が良いだろうと判断された場合に家屋改造に踏み切るようにしている。 家族の意見、本人の今後の機能的予後等を検討しながら行なうようにしています。安易には行なわないほうが良いと思います。 それから訪問リハビリの課題といたしまして、1 、依存性を高めない為に一定のスタンスが必要。 2 、目的を明確にする。3 、日常生活に直接結びつくもの。4 、保健師、ケアーマネージャー等の連絡をしっかりとる。 また他のサービスとして通所リハビリテーション( 以下通所リハ) がありますが、通所リハビリの目的は 1 、生活空間の拡大。2 、生活リズムの改善。3 、生き甲斐づくり等があります。それから、 当院における訪問リハビリと通所リハビリの要介護度別利用者数ですが、訪問リハビリは要介護度3 が最も多く4 、5 も次に多いようです。 すなわち介護度が重度でも自宅で介護をして居られる方が結構多いことがわかり、重度な方ほどリハビリが必要だということが考えられます。 通所リハビリの方は介護度1 が圧倒的に多いということです。ということは介護度の低い方は、通所リハビリを外出する為の一つのきっかけと考えておられて、 人との触れ合いやかかわりを持ち楽しい時間を過ごされているのだと思います。介護度の高い方はどうしても利用は困難になってくるようです。 だから訪問リハビリが必要になって来ると言いかえることが出来ると思います。
 また訪問リハビリと通所リハビリについてご家族、ご本人さんが期待、希望されることは、訪問リハビリのほうは、 歩行を中心とした機能の維持、回復に期待が最も多く、日常生活に関する要望は少ないように思われる。 すなわち、利用者はリハビリ= 機能訓練という考えが強く生活面に目が行きにくいのではと思われる。 また通所リハビリに関しても、身体機能面の維持、回復が多い事が伺えると思います。訪問、通所リハビリともに生活リズムの改善、 社会からの孤立化を防ぎ、生きる為の希望や生活の張りを取り戻すんだ。寝たきり、閉じこもりをつくってはいけないんだということが伺えると思います。 ここで閉じこもりという言葉がありますが、出ない、出さない、出られない、行き先がないが原因で結局、家の中に居るということが閉じこもりの最大の原因になってしまい、 寝たきりになる可能性が多くなる。これも最終的には先程お話いたしました廃用症候群に結びつくものです。 その為に障害者が行ける場所、また老人が出かけられる場所があれば閉じこもりは解消出来るのではないかと考えられます。 その為にタウンモビリティ、すなわち街のバリアを減らす運動とか、ユニバーサルデザインの考え方は非常に大切になってくると思います。 おわりに、リハ医療に優しさはついてくるもので、生活の中に関わることもある。同情や優しさが先行すればするほど、 患者は機能回復の好機を逸し、社会復帰を妨げられたり遅れたりすることになる。リハビリテーションの分野は年を追うごとに分化発展し、 理論的にも技術的にも高度になった様にみえる。しかし一方では寝かされたまま、抑制されたままの患者は後をたたない。 難しい理論や理屈はあるにしてもそんな相互の関わりを大切にしながら、この地域にこの病院があって本当に良かった、 この医療スタッフに出会えて本当に良かった、このリハビリスタッフに私達は支えられている。 そういう出会いをいつも患者さんに思ってもらえるように日々精進したいと思っています。 以上、「暮らしの中のリハビリテーション」ということでお話をさせて頂きましたが、今日の私の話がリハビリテーションの全てではありません、 まだまだ不足の部分も沢山あります。皆様が少しでもリハビリテーションについて今以上にご関心、ご理解を示して頂ければ幸いです。 どうもご静聴有難うございました。
講演当時の役職です)

Copyright(c) 2005 Stroke Forum All Rights reserved