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【講演】 脳卒中の治療と予防
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山根冠児 山根 冠児  中国労災病院 脳神経外科医長

1. 脳卒中とは
 病気で死亡する原因としてもっとも多いものは、最近ではガンでついで心臓病となっています。それに対し、 脳血管障害で死亡する人はガン、心臓病が増加しているのに比べて減少しています。これには食事を含めた生活習慣の改善や医療の進歩が貢献していると思われます。 しかし、発症数でみますと、脳血管障害で発症する人はガンや心臓病より多く、依然トップを占めています。
 脳血管障害には主に2 つの病態があります。一つは脳の血管が詰まる病気( 脳梗塞) で、もう一つは脳の血管が破裂する病気( くも膜下出血と脳内出血) があります。 この2 つの病気をあわせて、「脳卒中」といっています。
 脳卒中といいますのは、漢方医学の用語がそのまま残ったもので、発症の仕方を説明したものです。 「卒」とは、突然に何かが起こることを、「中」とは、なにかにあたることを意味しています。 したがって、脳卒中とは突然に麻痺が出たり、意識が悪くなったりすることを表現しています。 昔は脳卒中の原因を悪い、よこしまな気( 邪気とか邪風といったもの)、この邪気に当たったために脳卒中が起こると考えていました。 現在の西洋医学では脳卒中は脳の血管が詰まったり、裂けることが原因で起こることがわかるようになりました。

2. 脳卒中の2 つの病態
 脳卒中の症状は突然に麻痺や言葉の障害が出たり、意識が悪くなったりすることですが、実際に脳梗塞なのか、 脳に出血したのかは症状だけでは診断できないことが多くあります。どちらかを診断しませんと適切な治療法ができません。 たとえば脳梗塞では血圧を上げ、脳出血では血圧を下げるように全く反対の治療を行います。脳梗塞か脳出血かの診断には頭のCT 検査があります。 CT 検査は脳の断層撮影で、脳梗塞では黒く、脳出血は白くみえます。( 図1)
脳梗塞と脳内出血
 次に脳梗塞と脳出血に分けて説明します。

3. 脳梗塞について
 脳の活動は脳へ入ってゆく動脈( 心臓から送り出される酸素がたくさんある血液が流れている血管を動脈といいます) からエネルギーの補給を受けることでおこなわれています。 この脳へ行く動脈が詰まり脳へエネルギーの供給ができなくなると脳が障害を受け脳梗塞になります。 いったん脳梗塞を起こしますと元には戻りません。
3-1 脳梗塞の症状
 脳梗塞の症状は脳梗塞を起こした場所によって決まります。たとえば脳梗塞を起こした場所が手足を動かす機能をもった脳だと麻痺をおこします。 一般的な症状は手足の麻痺、しびれ、ろれつが回らない、言葉が出ない、意識がおかしいなどがあります。
 気を付けなければならないことに脳梗塞をおこす一歩手前の状態があります。これを「一過性の脳虚血発作」といっております。 脳梗塞の前触れで、麻痺などの症状が出ても短時間で治ります。しかし、安心してはいけないのです。放っておくと症状が治らなくなることがあるからです。 脳神経外科や脳卒中科などの適切な診断と治療を受ける必要があります。
3-2 脳梗塞の原因
 脳梗塞を起こす原因は血管が詰まる、あるいは狭くなること( 狭窄) で、大きく分けて、3 つの起こしやすい場所があります。 まず首にある大きな動脈( 頚動脈)、脳の大きな動脈、それと脳の小さな動脈です。( 図2)
脳梗塞・血管のつまりやすい場所

4. 首にある大きな動脈( 頚動脈) の狭窄
 脳に行く血管を内頚動脈と言っています。最近では、この内頚動脈が狭くなって問題を起こすことが多くなってきました。 この狭くなる原因は動脈硬化によるもので、血管壁の内側が厚くなり血管の中に突出するために血管が狭くなります。 脳から離れている動脈が狭くなることでなぜ脳梗塞を起こすかといいますと、一つは狭くなることで血液の流れが悪くなり、 脳へ送る酸素が不足すること、もう一つは狭くなったところに血のかたまりができて、それがはがれて血液の流れに乗って脳の血管を詰めてしまうことがあるからです。
4-1 内頚動脈の狭窄に対する治療
 多くは薬の内服でいいのですが、薬を飲んでいても狭くなるとか、すでにかなり狭くなっている場合は、外科的治療が必要となります。 手術の方法は簡単に言いますと「厚くなった内膜を切って取る」ということになります。医学的には頚動脈の内膜切除術といいます。
 手術の細かい方法については誌上では割愛致します。
 内頚動脈狭窄に対する内膜切除術の適応は、狭窄度、狭窄部位の性状、全身合併症、年齢などによって決まります。

5. バイパス手術について
 大きな動脈が閉塞した時、たとえば頚部で頚動脈が閉塞した場合や脳の大きな動脈が閉塞した場合などで脳への血液の供給が不足してくると、 脳への不足した血流を改善させるために、頭の皮膚の血管を脳の血管につなぐバイパス手術が必要になることがあります。

6. 脳内出血
 脳の中に出血する病気です。原因は脳の中の小さな血管が破けることです。中高年者になりますと動脈硬化により血管がもろくなります。 高血圧、糖尿病などをもっているとさらに動脈硬化の進行が早くなって血管がさけやすくなります。また、ストレス、疲れ、睡眠不足などが出血を起こすきっかけになります。
6-1 脳内出血の治療
 脳内出血の治療は、小さな出血では保存的治療( 薬による治療) でいいのですが、大きな出血になりますと手術が必要になります。手術には全身麻酔と局所麻酔で行う方法があります。

7. くも膜下出血
 脳の動脈のこぶ( これを動脈瘤といいます) ができて、破裂するとくも膜下出血をおこします。( 図3)
くも膜下出血

7-1 くも膜下出血の症状
 突然の後頭部の強い痛み、吐き気、嘔吐、意識障害、片麻痺
7-2 くも膜下出血の診断
 頭部CT 検査でわかりますので上記の症状があれば頭部CT 検査を行う必要があります。
クリッピング手術 7-3 くも膜下出血の治療
 早期に正しい診断をうける必要があります。したがって、脳神経外科医のいる病院でみてもらうことがきわめて重要になります。もし、くも膜下出血であった場合、 治療は外科治療が最も確実です。手術はクリッピング手術といって、破裂した動脈瘤の首根っこをチタン製のクリップでつまんで再び破れないようにすることです。( 図4)
7-4 くも膜下出血の予後
 くも膜下出血をおこした場合、入院時に意識が悪いと手術がうまくいっても予後が悪くなることが多くなります。 したがって、脳動脈瘤をまだ破裂しないうちに発見し、手術をして破裂するのを防ごうという治療が最近多く行われています。
7-5 脳動脈瘤の発見
 脳の血管に動脈瘤があるかを調べるにはエムアール(M R) 検査でできます。
 最近では、中国労災病院では破裂する前の動脈瘤に対する手術が増加しています。

8. もし脳卒中になったら
 脳卒中の後遺症の多くは、上下肢の麻痺、言語障害、知覚障害です。後遺症をできるだけ少なくするように早期から機能訓練をすることが肝要です( 早期リハビリテーション)。 リハビリテーションの目的は日常生活の自立、在宅への指導、職場復帰、運動機能訓練、言語訓練をおこない、できるだけ脳卒中を起こす前の状態に近づけることです。

9. 脳卒中の予防
 予防が最も大事です。そのためには生活習慣や食生活の改善、もともと持っている高血圧、高脂血症、糖尿病、 心疾患などの脳卒中を起こしやすい基礎疾患の治療をしっかり行うこと、脳と脳の血管の定期的な検査( エムアール、CT 、超音波検査、脳血流検査など) を行っておくことです。

まとめ
 脳卒中は予防が最も大事です。運悪く脳卒中にかかったら適切な診療科を訪れ早めの診断と適切な治療を受けることが重要です。また、定期的な脳の検査を受けることも忘れてはいけません。
講演当時の役職です)

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