【講演】 脳卒中の徴候:こんな症状が危ない |
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片岡 敏 中国労災病院 神経内科* はじめに 脳に起こる病気の中で最も頻度が高いのは脳卒中ですが、その脳卒中による症状が出たときの対応の良し悪しで脳卒中発症後の生活にも大きな影響を及ぼすことになりかねません。 従って、脳卒中を強く示す症状はどのようなものがあるか良く理解したうえで、症状が出た場合の初期の迅速な対応に役立てていただきたいと思います。 1:脳卒中の種類 脳卒中にはその原因、機序から下記の2種類に分けることができます。 ・虚血性脳卒中(脳の血管が閉塞)=脳梗塞、一過性脳虚血発作 ・出血性脳卒中(脳の血管が破裂)=脳出血、くも膜下出血 2:脳卒中の実態 日本人の年間脳卒中発症者数の推計では毎年約11万2千人が脳梗塞を発症、5万3千人が脳出血、2万6千人がくも膜下出血を発症し、年間の脳卒中の有病者数は推定で約176万人にも及んでいます。 脳卒中急性期データベースJSSRS(1999年−2003年)によると急性期脳卒中の実態調査(一過性脳虚血発作を除く15604例)では脳梗塞は78.0%、脳出血は15.5%、 くも膜下出血は6.5%であり、脳卒中を発症した5人のうち4人は脳梗塞であったことになります。 3:脳梗塞による症状の特徴 脳梗塞による症状の起こりかたには下記のようないくつかの特徴がありますので注意が必要です。 ・急激に出現し、症状が変動する。(良くなったり悪くなったりする。) ・特に夜半から午前中に生じることが多い。 ・脳の障害部位(脳の血管がつまった部位)や範囲によって症状が異なる。 4:脳梗塞で頻度の高い症状 脳の血管が閉塞する部位によって初発症状が多少異なります。 一般的に広い範囲の脳梗塞であれば症状が重く、意識障害も高度になります。 ・片側手心の運動障害 腕が重い。上がらない。手で物がつかめない。 足が重い。歩けない。立ち上がれない。 ・体の動揺感 体がふらつき歩けない。一人で立っておれない。歩くと一方に傾く。 めまい感(動揺性、回転性) ・言葉の障害 言葉が不明瞭になる。呂律が回らない。(酔っ払ったような喋り方) 言葉が出てこない。言った言葉が理解できない。 ・眼の障害 一方の眠が急に見えなくなる。 片側が急に見えにくくなる。(=視野が狭くなる。) 片側を無視する。(=そばにいる人や物に気づかない。) ・急激な意識の混濁 話しかけても言葉の反応がない。 呼びかけで眼を開けても反応が鈍い。 大声で呼んでも眼をあけない。 眼をあけないでいびきをかく。 5:一過性脳虚血発作とは 一時的にいままでに述べた症状が出現し、多くは10−15分で改善、消失する状態をいいます。 原因は脳の血管が一時的に閉塞して血液の循環がなくなるためです。一度でもそのような経験があれば検査が必要で、 特に繰り返しておこる場合は脳の血管が完全に閉塞して脳梗塞に進展する危険が迫っています。 6:脳卒中の画像診断 現在はMRIにより症状出現後3時間くらいで脳梗塞の部位、広がりが正確に診断可能です。 また新しい血栓溶解薬により発症後3時間以内の超急性期での治療ができるようになります。 7:脳出血の主な症状 脳出血もその部位によって症状や徴候が異なりますが、最も多い被殻出血では次のような症状がみられます。 ・頭痛と吐き気がする。 ・言葉が不明瞭になる。 ・意識が混濁する。 ・片側の運動障害 ・片側をにらむ。 8:くも膜下出血による主な症状 脳の表面に出血するために発症直後から生じる激しい頭痛が特徴的で、大変致死率の高い脳卒中です。 ・突然生じる激しい頭痛 ・吐き気、嘔吐 ・意識混濁 ・四肢の運動障害(麻痺) 9:脳卒中の代表的な5つの症状 主な5症状の中でも最も多い初発症状は片側手足の運動障害です。 ・急激な半身の運動障害、感覚障害 ・意識障害、言語障害 ・突然の視力低下 ・めまいやふらつきを伴った歩行障害 ・かつてない激しい頭痛 10:脳卒中の特徴 一般的な脳卒中についての特徴を挙げます。 ・症状は急激に出現する。 片側手足の運動障害が多い。 深夜から午前中、午後夕方に出やすい。 障害の程度が変動する。 ・頭痛やめまいを伴うことがある。 ・脳の障害部位により症状が異なる。 ・意識障害が強い場合は重症である。 ・危険因子(年齢60歳以上、高血圧、糖尿病、高脂血症)を持つことが多い。 11:脳卒中の予防ガイドライン(NSA1998) 国際脳卒中協会では脳卒中を予防するために下記の事に気をつけて生活するよう呼びかけています。 次の項目であてはまることがあればすぐに実行しましょう。 ・自分の血圧を知り、高ければ治療を受けましょう。 ・不整脈(心房細動)がないか調べましょう。 ・禁煙しましょう。飲酒はひかえめにしましょう。 ・高脂血症がないか調べましょう。 ・糖尿病があれば治療を受けましょう。 ・運動の習慣をつけましょう。 ・低塩、低脂肪の食事をしましょう。 ・脳卒中を起こす循環器病(心臓病)がないか医師に尋ねましょう。 ・脳卒中の症状があればすぐに受診しましょう。 まとめ 脳卒中は多くは予測なしに急に生じ、非常に頻度の高い脳の病気です。 脳卒中の中でも特に脳梗塞が多く、この脳梗塞では発症から診断、治療までの時間がその後の状態(後遺症の程度)を左右することから、 疑われる症状が出たら我慢せずにすぐに神経内科医と脳外科医のいる脳卒中の診療体制が整った病院を受診し、可能な限り早く診断を受けることが大切です。 (*講演当時の役職です)
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