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【講演】 呉地区における脳卒中診療ネットワーク
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山根冠児 先生 山根 冠児  中国労災病院 脳神経外科

現状
 脳卒中で死亡する人は、日本では平成15年の統計で悪性新生物(癌)、心臓疾患に次いで第3位を占めています。 しかし、脳卒中に罹る人は、その中でも最も多くなっています。脳卒中とは脳に突然に障害を起こし、麻痺、言語障害、意識障害をきたす病態のことをいいます。 脳卒中に含まれる病気としては、脳の血管の血流が低下することによる脳梗塞、脳の血管が破綻して起こる脳内出血、くも膜出血があります。 これらの脳卒中に罹ると、手足の麻痺や、言語障害などをおこし、障害を残すことが少なくありません。

 そういった脳卒中に罹った場合、治療はどのようにされているかをご説明いたします。
図1.これまでの脳卒中の治療 クリックすると拡大表示します  まず脳卒中に罹ると、ほとんどは救急病院に入院することになります。そこで診断を受け、ただちに急性期の治療を行います。手足の麻痺、言語障害がある場合は、 平行して急性期のリハビリテーションを行います。その後病状が安定しますと、慢性期治療と平行して慢性期のリハビリテーションを行います。そして、これ以上入院していても更なる治療効果が少ないと判断された場合、 その病院から自宅に退院するか、障害があり自宅では療養が困難な場合は施設への転院となります。このように一つの病院で急性期から慢性期までを一貫して治療することを「病院完結型」(図1)と言っております。 この病院完結型はこれまでの医療現場で行われてきた形態です。この病院完結型の病院は地区の基幹病院(大病院)にあたります。しかし、この病院完結型の最近の問題点として、 (1)地区の住民の方々の大病院指向があり、病院でこれ以上治療しても効果はそんなにあがらない状態になっても転院を希望しない状況があります。 また、(2)配偶者の高齢化、核家族化で自宅での受け入れができないため、自宅への退院が困難となることが多くなっていています。 さらに(3)患者さんの状態にあった施設が少ないことがあります。そのため救急患者を受け入れている病院の入院期間が長くなってしまいます。 入院期間が長くなってしまいますとベットの空きが無くなり、救急患者さんの受け入れができなくなります。もともと、地域の基幹病院は救急患者を重点的に診る重要な機能がありますので、その重要な機能が果たせなくなります。 また、今政府が問題としている医療費の増加にもつながります。

問題解決に向けて
図2.脳卒中ネットワーク クリックすると拡大表示します  こういった問題点を解決するために、いろんな地域で新たな取り組みがされてきております。この呉市でも問題解決に向けて新たな取り組みが始まっております。 それは、脳卒中の治療を基幹病院で完結する「病院完結型」ではなく、呉地域にある病院、医療施設、および介護施設の間で患者さんを中心にした連携体制をつくることにより、地域で脳卒中の患者さんを見てゆくという「地域完結型」(図2)の治療を目指すことです。 具体的には、脳卒中に罹った場合、まず急性期病院(脳卒中の急性期を治療することができる病院)で急性期の治療を行い、平行して急性期リハビリテーションをおこないます。 その後は運動麻痺などの障害がある場合は、回復期リハビリテーションのある施設に転院し約6ケ月を限度にリハビリテーションを中心にした治療を行います。 その後は、障害の程度により療養施設、介護施設に転院、あるいは自宅に退院となります。自宅退院になった場合は、かかりつけ医を中心に治療を受けます。 こういった脳卒中の治療を地域の施設の特性を生かしたシステムにより地域で治療を分担してゆく連携をつくり、地域で脳卒中を見てゆこうとするものです。 昨年までは、呉市には回復期リハビリテーションに特化した施設がなく、これはきわめて全国的に見て異例のことでしたが、今年の秋から呉市にも待望の回復期リハビリ病院ができました。 地域完結型に向けての取り組みの第一歩が始まっております。

 今後は、在宅の支援をどうするのか、回復期リハビリ病院での治療が終了した後の治療をどうするのかといった問題が残っており、介護施設、療養施設、かかりつけ医との連携の強化が重要となってきました。

 呉市では、このような現状をふまえ、呉市の脳卒中の治療に係わる病院、医院、施設を中心に昨年(平成17年)度から「呉脳疾患懇話会」を立ち上げて、地域完結型を目指し病院、医院、施設間の連携を深め、脳卒中の治療がとぎれることなくつながり、 患者さんの生活の質の向上に向けて取り組みが始まっております。

講演当時の役職です)

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