さあ皆様休憩時間が終わりました。ご着席ください。あと2題ほどありますが、ひとつは最初にお話ししました通り、食べ物に関するお話です。
脳卒中になったら、もしくは歳をとったら誰しも、飲み込みにくいという症状が出てきますので、そのときにどういった工夫があるのかというお話です。
また、前半の講演で食べ物と運動って一番大事だという話が何度も出てきました。そこで、食べ物の話の後は、最後は運動して帰って頂くという趣向になっております。
氷川きよしさんのメロディーが待っておりますので、ちょっとお待ちください。
さあ、それでは、中国労災病院の管理栄養士さんです。栄養管理室長の外裏さん、よろしくお願いいたします。
外裏貴子 中国労災病院栄養管理室*
ご紹介ありがとうございました。中国労災病院管理栄養士の外裏と申します。どうぞよろしくお願いします。今日は飲み込みやすい食べやすい食事の工夫について話させて頂きたいと思います。
はじめに、食べるということには3つの大きな意義があります。1つめは、栄養を体内に取り入れ、生命を維持すること。
2つめは、活動するためのエネルギーを得ること。3つめは、味を楽しみ、人との交流を楽しむなど生活の質、QOLをあげる、保つ、ということが食べるということの意味になるかと思います。
いずれも、人間らしく生きていくためには、大切なことだと思います。また、人は食べ物を、口という入口から消化器を通していろいろな旅をして栄養素を体の中に取り入れています。
そして、補充しながらいらないものは便として排出されています。その栄養素の摂取方法に問題があると、いろいろな疾病が現れ、なかには、食べ物を受け入れる入口に問題や障害がおこると、摂食、咀嚼、嚥下障害になられる方もおられます。
では、食べるということはどういうことでしょうか。まず、食べ物を食べるとき、まず食べ物を目で見て、確認、認識します。
そしてまたそれが空腹のときは見ることによって食欲が湧いてきます。そして食べるものが自分のものであれば近寄って手に取って口に運びます。
大きいものであれば、口に入る大きさに噛み切って口の中に入れます。ここまでを先行期といいます。
そして口を閉じて、咀嚼、かみ砕き、唾液と混ぜながら、味わいながら舌を使って食べ物をまとめていき、これが準備期にあたります。
そして、ある程度噛んで食べ物がまとめると、のどへと送り込みます。これが口腔期です。そして、のどを通過させて、食道へ送り込む。
これが咽頭期にあたります。そして食道を通過させることを食道期といいます。これらの段階が全て分かれているのではなく、実際には連続的に行われているものです。
このように食べることは、精神や多くの器官によっての作業が必要になってくるものです。
この一か所でも何らかの原因で障害が起こってきた状態を咀嚼、嚥下障害といいます。また、このような流れがとれずに、誤って食べ物が気管から肺に入った状態を誤嚥といいます。
では、食べることの障害として考えられることは、精神的、心理的原因が考えられます。食べるという気持ちを起こさせるのは大脳です。
これが目覚めなければ食べることはできません。そして精神活動が低下する、いわゆる痴呆、また食べ物が、食べものであるということ、あるいは食べるということが分からなくなることもあります。
それから構造的原因として虫歯が痛いとき、歯がほとんどない、入れ歯が合わない。また、口から喉、食道にかけて、何らかの炎症がある場合も、食べることが苦痛になることがあります。
そして機能的原因としては1つに、食べ物を口に運ぶことが困難な場合。これは、麻痺、筋力の低下などによって、スプーンや箸によって口の中に食べ物を運ぶことが困難な場合。
または口を閉じることが困難な場合です。2つめに咀嚼することが困難。これは食べ物が口の外に出てしまったり、うまく噛めなかったり、舌の動きが悪いために咀嚼ができなかったりする場合があります。
そして、3つめに嚥下することが困難。うまく飲み込めず、食べ物の塊が口の中にたまってしまって飲み込むのに時間がかかる場合があります。
このときに食べ物がうまく食道に入らずに、気管に入ってしまうことを誤嚥といいます。誤嚥を防ぐものには、個人の機能状態によって、かなり食事形態を変える必要があります。
比較的誤嚥しやすい形状と、食品の例をここで挙げてみました。1番目に硬いもの、たとえば肉やりんご、また漬物などは少し噛みにくいものです。
それから2番目に液体のもの、これは水やお茶、味噌汁、汁物などです。すごく食べづらいという感覚はないかもしれませんが、嚥下反射が、「ごほん」という反射が低下するとのどに入るスピードが速いさらっとした液体状のものは、
むせる原因になります。3番目に食品内の水分が少ないもの、食パンや凍り豆腐、カステラ、口の中でパサパサするもの。それから繊維の多いもの。
ごぼうやれんこん、もやしなどがあります。それから練り製品や魚介類、かまぼこやいか、たこなど噛み砕きにくいもの、口のなかでバラバラになるもの、そして口の中に付着しやすいもの。
たとえばわかめや海苔や青菜、口の中で「ぺちゃっ」とひっつくような食品。それから酸味の強いもの。これはむせやすい酸味の強い酢の物や、かんきつ類などです。
それからのどに詰まりやすいごまやピーナツ、きなこ、口の中に入ってまとまりにくいもの。それから弾力が強いもの、たとえばこんにゃくゼリーやかまぼこ、もちなどがあります。
先ほど言いましたが、むせとは気動の粘膜が異常物を排出しようとする生体防御反応で、水や食べ物が気管に入ることを防いでいます。
摂食・嚥下障害があると口の周りの筋力の低下や嚥下反射の遅れなどが原因で食べ物がのどに残りやすく、むせることが多いようです。
また、高齢者の方などはのどの筋肉が弱まると、のどの絞り込みが弱くなるため、のどに食べ物が残りやすく、残った食べ物が気管に入る可能性が高く、誤嚥しやすくなります。
では反対に食べやすい形状のものは、先ほどたくさんの食品を挙げましたが、食べづらい食品を避けていると、栄養が偏ってしまいます。
嚥下が難しい食品もある程度調理工程、調理加工をすることで食べやすい食品に変わります。食べやすい形状をご紹介させていただきます。
1つ目に、はぶや舌で押しつぶせる柔らかさ、歯がなくても、はぶでつぶせる柔らかさです。それから、水ものなどは気管に入りやすので、ある程度のとろみがついていたほうが誤嚥しにくいです。
形状的にはポタージュ程度のとろみが一番いいようです。それからやはり口の中で固まるものが良いです。ばらばらにならない、もそもそしない口の中でまとまるものです。
そして口やのどを変形しながらなめらかに通過するものがお勧めです。そして密度が均一なもの、スポンジ状でないもの、例に挙げると、高野豆腐のようなスポンジ状のものでなく、絹ごし豆腐のような密度の均一なもののほうがお勧めです。
摂食障害のある方や高齢者の方は一般に気分や体調が悪い時などによって食欲がなく、飲み込みも悪いようです。
反対に体調の良い時は、ご自分から食事に手を出されて全量摂取される方も多いです。いつも状態が一定ではないようです。
そこで、普段の食事作りの中で安全、かつ簡単にできるものはないかということで考案されたのがこの五段階食事療法です。特別な食事を作るのではなく、できるだけ家族の方と同じものを同じ素材で形を少し変えるだけで食べやすくする方法です。
コンセプトは「楽しく、おいしい食事の再現」で、おいしかった喜びを味わってもらうことを目的に考案された方法です。1段階から5段階まであります。
ここから少し、5段階を詳しくご説明させていただきたいと思います。
まず1段階は何でもおいしく食べれる時期です。このときは家族と同じメニューでも構いません。当院では普通食を提供させていただいております。
それから2段階目は固いものや脂っこいものが少し食べにくくなる時期です。
比較的やわらかい素材を選んでいただいて、大きめの一口サイズにカットしていただく、また噛みにくい肉などは、食べやすい大きさで薄切りにしてよく煮込んでいただくなどがお勧めです。
元の形を残しながら、舌やはぶでつぶせるくらいの軟らかさに仕上げていただけると良いかと思います。また義歯や噛み合わせが悪い場合や手が不自由な場合です。
当院では一口切りや、一口むすびなどで対応しております。
3段階は口が渇いて唾液の分泌が悪い、または歯がない入れ歯が合わないなどの咀嚼障害がある時期です。
食事の形態はスプーンでつぶせる程度のつぶし食が中心になります。よくすりつぶした食品にとろみをつけたり、あんをかけたりしてのどごしをよくします。
当院では刻み食や嚥下D食になります。こちらの嚥下D食は、全がゆとやわらいおかずを刻んだものにとろみをつけております。
ここにバナナがそのまま出ているかと思うのですが、バナナぐらいの固さだと思っていただいたらいいかと思います。このときお茶にもとろみがついております。
それから4段階は食欲がなく、時間を十分にかけないと食べれない、歯がないや流動食なら飲み込めるけど・・・、また少し栄養障害がある時期をいいます。
なので、ミキサーにかけたり、ペースト状にしたり、プリン状にしたものが適しています。当院ではミキサー食や嚥下C食を提供させていただいております。
ミキサー食には、何をミキサーにかけているか分かるよう、ミキサーにかける前の料理を皿に盛りつけております。
それから嚥下C食は、3分がゆ程度のおかずを刻んだり、マッシュにしたものにとろみをかけています。よって果汁やお茶にとろみがついております。
5段階は食べ物をよく認識できず咀嚼・嚥下障害がある場合やすぐにむせてしまったり、食べ物をのどに詰まらせることが多い時期です。
また口をあけることが困難な場合もこの5段階の時期にあたります。このときは、のどを通過するときにばらばらになり、気管に入ってしまう形態はさけていただくのが良いかと思います。
そして粘りがありすぎるとのどに張り付いてしまうことがありますので注意が必要です。この段階からゼラチンや市販のゲル化剤を利用していただくと手軽にできるかと思います。
当院では嚥下A食、嚥下B食にあたります。嚥下A食は市販のたまご豆腐やプリンのようなのどごしが良いもの、嚥下B食の主食は全粥、おかずはマッシュにしたものやペースト状にしたものにとろみをつけたものを提供させいただいております。
この段階にもお茶にはとろみがついています。そうは言いましても、個々人で症状が違うために当院では個別栄養相談というかたちで、個々人にあった食事形態に変化させて対応しています。
実際に、嚥下食づくりのポイントとして、できるだけ素材を生かしておいしく食べて頂くことが大切で望ましいです。
どんな素材でも切り方や調理法によって軟らかくすることができます。嚥下食作りのポイントについてお話しさせていただきます。
1つに軟らかくなるまで煮込んでいただくことが1番です。ご家庭では圧力鍋などを使われると調理時間が短縮することができるかと思います。
そして次に、ゼラチンやゲル化剤、寒天などで寄せものにする。たとえばプリンとかムース、牛乳寒天のようなものにしていただくと良いかいと思います。
それから葛粉、片栗粉などでとろみをつける、あんかけにする。料理法ではごま豆腐や牛乳あん、それからクリームなど、少しとろみがついたようなものです。
それから、水分や汁物にはとろみをつける。先ほども言いましたように水分は、喉を通過する速度が速いので誤嚥しやすいです。
よって、とろみをつけていただくことで誤嚥が防げます。それから酸味のあるものはむせやすいのでなかなか敬遠されがちですけれど、
合わせ酢をだし汁などで薄めていただくことで、酸味を少し和らげることができるので、酢の物でも食べて頂けるかと思います。
それから山芋やおかゆと一緒に食べる。こちらは、山芋やおかゆの食品自体にもつ粘りを利用して、のどごしがよく食べていただけるかと思います。
それから卵を使っての蒸し物にする。卵は、短時間で簡単に料理ができます。たとえばミルクセーキのような流動食から、ゆでたまごやオムレツのような固形物のものまで作ることができます。
茶わん蒸し、たまご豆腐、プリンなども、のどごしが良いです。卵は火にかけすぎるとすが入ってしまったり、固くなるとかありますので、注意が必要かと思います。
そして、油を使ってのどごしのよいものにする。それから、イモ類はマッシュにする。
最後に、盛り付けを工夫する。やはり食感や味に加えて見た目、食べ物の見た目は、食欲を増進させます。彩りや季節感、形、食器などに配慮して食欲をそそるようにしていただけたらと思います。
肉は硬くて噛めないという先入観からかあまり食べない方が多いようです。肉は、タンパク質を多く含み、栄養価も高いので、ぜひ食べていただきたい食品の1つです。
肉は部位によって軟らかさが違うのと、調理法などで食べやすくなる食材です。
ここからは、同じ食材を使って、段階別にご紹介させていただきたいと思います。
1段階は、何でも食べれる時期です。ご家族と同じものを食べていただける段階です。ご家族と同じ調理法でOKです。今日は鶏肉のパン粉焼きをご紹介させていただきます。
淡白な鶏もも肉も、粉チーズ入りのパン粉をつけて焼くとボリューム感のある一品になります。
2段階は、少し硬いものが噛めなかったり、脂っこいものが食べられない時期になります。
このときは、通常のパン粉を細かく砕いていただくことで、口当たりが軟らかくなります。また、そぎ切りにしていただくと食べやすくなります。
付け合せのピーマンは、千切りにしていただき、かぼちゃは皮をむいていただくことで食べやすくなります。
3段階は、柔らかくつぶしたり、細かくつぶした状態の段階になります。ここからは鶏肉のもも肉は、鶏肉のひき肉を使っていきます。
軟らかくよく練って丸めていただくと、食べやすくなるかと思います。添えていただく野菜も、細かくすりつぶしていただくと、食べやすくなります。
4段階は、流動食あるいは半流動食の段階にあたります。このときも、3段階と同じように鶏肉のミンチを軟らかく練っていたき、ゲル化剤を加えます。
付け合せのホウレン草やかぼちゃはゆでてマッシュにし、きれいに形成していただくと見た目もきれいで、食欲もそそるかなと思います。
5段階は、のどごしが良いもの、ペースト、マッシュ状のおかずの段階になります。ゲル化剤を使用していただいてゼリー状にしていただくことで飲み込みやすくなります。
先ほどから出てくるゲル化剤についてご説明させていただきます。ゲル化剤はとろみ剤です。食品、飲料、汁物などにとろみをつけたりする食品添加物です。
粘度をあげるために使います。成分は、天然由来の多糖類が殆どです。種類としては寒天、ゼラチン、片栗粉、コーンスターチ、小麦粉などがあります。
寒天はテングサが原料です。寒天の場合は、煮溶かし、濾して、型に流し固めます。硬くなりすぎると、口の中でばらけてしい、気管に入りやすくなるので注意が必要となります。
それから、ゼラチン動物の骨や皮、すじのコラーゲンが原料です。ゼラチンの中に砂糖が多くなると、弾力が増してくるので、弾力が強すぎるものも誤嚥に繋がります。
反対に、酢の料理では、かたまりが弱くなります。また、ゼラチンは水にふやかして加熱して、型に流し込んで冷やし固めます。
そのため常温に放置しておくと溶けてきてしまいます。溶けやすいので口にするっと入りやすい反面、口の中に滞在する時間が長いと、液状になるため誤嚥に注意が必要です。
それから片栗粉は、じゃがいものデンプンが主成分です。調理法は加熱している料理に水溶き片栗粉を入れて、とろみをつけていく、というものになります。
少し安定するまでに時間がかかるというのが難点です。
それからコーンスターチはとうもろこしが原料になります。カスタードクリームなど作るときに用います。
入れすぎたりすると粘りが強かったりと安定しにくいところもあります。それから小麦粉は小麦が主原料になります。
バターと小麦粉を混ぜてルーを作ったりするときに用います。難点はダマになりやすいことです。
最近では、多くのゲル化剤が流通しています。天然由来のものから、いろいろなメーカーが商品を発売しています。
まぁたくさんあるんですけれど、薬局やドラッグストア、それから通信販売などでも販売しています。
ちょっと宣伝ですが当院、中国労災病院の売店の方でもとろみ剤販売しています。
最近は、ゼラチンや寒天のパウダーになったもので、前処理なしで、直接食品に入れてもいいようなものも開発されています。
ここからは、市販されているメーカーのゲル化剤についてご説明させていただきたいと思います。天然由来のものに比べると、少し調理しやすいものが多いようです。
たとえば、ゼラチンなどは、冷やし固めないといけないので、冷たい料理になってしまいますが、メーカーのゲル化剤は、温かい状態で提供することができます。
60度まで加熱することができるので、温かい食事を食べていただくことができます。それから優れた嚥下適性を有します。食品のべたつきを軽減することができます。
それから形状が安定しやすく、時間をおいても液状になることが少なく、少量でとろみがつきます。そして、温かいもの、冷たいものにもとろみがつけれます。
そうは言いましてもなかなか手間がかります。毎日毎日だと大変かと思います。そういうときにちょっと使っていただけたらいいなと思います。
最近ではこういうふうにいろいろなメーカーがやわらか食というようなかたちで発売しています。メーカーによって、それぞれの味があります。
ときどきはこういうものを利用していただいても良いかなと思います。五段階別になっています。
ときどきこういうもので柔らかさを確認していただいたり、とろみの具合なども確認していただくのも良いかと思います。
食事が、食べることがいつも苦痛になってしまうのは悲しいです。苦痛ではなく、食べる喜びを思い出していただければ幸いに思います。
今日はご清聴ありがとうございました。
豊田:
ありがとうございました。確かに食事って本当に大事ですよね。食べるのも大事ですけど、作る方はなかなか大変そうですね。
しかし、そのひと手間を掛けることが愛情なのかなと思いました。
その前に、手間を掛けてくれるような奥さんを見つけるのも大変かな、という問題もあるかも知れませんが... どうもありがとうございました。
(*講演当時のものです)
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