トップページへ
【講演】 脳卒中になりやすい人とは
トップページ第18回講演会>【講演】脳卒中になりやすい人とは

豊田章宏
 それではまず、講演のトップバッターをご紹介します。 「脳卒中になりやすい人とは」というタイトルで、中国労災病院神経内科部長・北村健先生にお願いしております。拍手でお迎えください。(拍手)
 北村先生は神経内科の部長でいらっしゃいます。みなさんは脳神経外科とか、神経内科とか、ご存知でしょうか?  かつては精神科と神経内科との区別が分からなかったこともあったと思うのですが、神経内科というのは脳卒中はもちろん、パーキンソン病などの神経疾患、 神経難病とかを治療する診療科です。今度、北村先生が中国労災病院の部長となられました。みなさんもお世話になることがあるかも知れませんので、 よく覚えておいてください。それではよろしくお願いいたします。(拍手)

写真・北村 健 さん 北村 健 さん
   中国労災病院神経内科部長


 どうもありがとうございます。中国労災病院神経内科の北村です。今回18回ということで、僕が医者になって20年ですけれども、 ほぼそのころからある歴史のある講演会でこうしてお話をさせてもらえるということで、今日は非常に楽しみに来させていただきました。
 脳卒中になりやすい人ってことで、お話を頂いたんですけれども、脳卒中について少し理解しておくことも非常に重要なので半分くらいは脳卒中についての話をしていこうと思います。

図1:心筋梗塞・脳卒中予報
図1:心筋梗塞・脳卒中予報
(クリックすると拡大表示します)
 これは県医師会のホームページにあるもので、当脳卒中フォーラムのホームページもあって、そこにもリンクされているんですけど、 これは今日の分を持ってきました。10月6日ですね。心筋梗塞・脳卒中予報は、気候が、たとえば急に寒くなったりだとか、 すごく蒸し暑かったりすると脳卒中って非常に起こりやすくなりますが、今日は南部、心不全・脳卒中というのは「普通」、「危険度小」となっております。 今日の当直の先生は多分楽だと思いますね。解説には今日は30度近くまで上がるみたいで、汗をかきやすいでしょうし、水分を摂りましょうということが書いてありますね。
図2:脳卒中かも、早く病院へ!
図2:脳卒中かも、早く病院へ!
 これは脳卒中協会という日本全体の会があるんですけれども、そこが作っているパンフレットです。「脳卒中が疑われたら一刻も早く専門的病院へ」て書いてありますね。 脳卒中では以下のような症状が突然起こりますと書いてあります。症状についてはあとで触れますけれども、脳卒中というのは疑われたら早く病院へ行かんといけんというのは分かりますよね。 テレビのコマーシャルも最近入っておりますので、脳卒中っていうのは急がないといけないというのは、最近知識としてみなさん持たれるようになったと思います。
図3:脳卒中とは?
図3:脳卒中とは?
(クリックすると拡大表示します)
 じゃあ脳卒中とはなんだろうということでですね。簡単に言えば、脳の血管が詰まる、もしくは破れる病気です。血管の病気だということです。 血管のなかには血液が流れてますが、詰まる、あるいは閉塞するということになると、中の栄養だとか酸素が詰まった先に届かなくなるわけでその部分が死んでしまうんですね。 それを梗塞といいます。心臓で起こった場合は心筋梗塞ですし、脳で起こった場合は脳梗塞ですね。一方、破れるとそこへ血がどんどん溜まってきます。 それを出血といいます。心臓には出血は一般にはないですけれども、脳は梗塞と出血が両方起こります。
 血管というのは、実は、いろいろ種類がありますね。手を見ると表面に血管が見えます。点滴とか刺す血管ですが、これは静脈です。 今回問題になっているのが動脈というもので、心臓から全身へ流れるほうを動脈といいます。心臓から全身へながれる方は、すごい圧がかかって勢いがあります。 その血管を切って、絵で見てみると、本来の血管はきれいな壁になっているわけですけれども、そこへコレステロールなんかが溜まってくると壁は厚くなります。 外側に厚くなってくれれば困らないんですけど、中側に厚くなってきますから、血液が流れるスペースが狭くなってしまいます。これを動脈硬化と言います。 さらに行き過ぎれば詰まるなってことは理解してもらえると思います。
図4:脳血管障害
図4:脳血管障害
(クリックすると拡大表示します)
 さきほどの繰り返しですけれども、脳梗塞、脳出血なんですけれども、脳を縦に切った絵ですけれども、この赤いのが血管ですね。 心臓から頭へ入ってくる血管です。まず太い血管がり、そのあと細い血管が枝分かれしているんですね。 ここに描いてる血栓ができると、血管の中に詰まってしまってこの先に流れなくなると、脳梗塞が起こるということですね。 こちらはその逆で、細い血管は破れやすいんですけれども、破れると出血します。これは脳出血といいます。 あとくも膜下出血というのがあって、脳の表面にある血管に動脈瘤というコブが出来て、それが破れることで脳の外側に出血することで生じます。 今日は脳卒中ということなんですけれど、現在は脳梗塞が非常に増えていますので、以降は脳梗塞を中心に話をしていきます。
図5:脳の構造
図5:脳の構造
(クリックすると拡大表示します)
 脳卒中は脳の血管の病気だという話をしました。これは教科書から取ってきた絵なんですけれども、2つは血管の絵ですね。 脳の表面と中にも血管は走っているんですけども、脳卒中というのはこの血管が詰まったり、破れたりするわけですけど、血管のどこが障害されるかで症状が違うわけですね。 右の絵では、顔の絵があったり、手の絵があったり、足の絵があったりします。前側の中心前回という場所に、運動を司る場所があるんですね。 ここへ脳梗塞が起こると、顔が動かなくなるし、手が動かなくなります。ここはよく脳梗塞が起こる場所ですけれども。その一個後ろは感覚が並んでいますね。 あるいは脳の後ろ側には視覚と言って、見ることに関係する場所があります。だから脳の後ろ側に脳梗塞が起こるとものが見えなくなったりします。 あるいはこの緑色の部分とか黄色の部分は言葉の中枢があります。相手の言っていることが聞いても分からなくなったり、あるいはしゃべろうと思っても言葉が思い出せないような感じになります。 どこの場所に脳梗塞が起こるかによって症状が全然違うということですね。
図6:死因別死亡率の年次推移
図6:死因別死亡率の年次推移
 話を変えますけど、この表は死因別にみた死亡率の年次推移を示していて、どういったことで日本人は亡くなっているかということです。 昭和22年から平成23年までを示しています。私は43年生まれで、そのころは脳血管障害で亡くなることが多かったわけですね。 そのあとに顕著に増えてきているのは悪性新生物です。脳血管障害、脳卒中自体はちょっと減ってきています。 また肺炎が最近増え、脳血管障害と同等になっています。脳血管障害による死亡は減ってはいますが、死亡する大きな原因であることには間違いないということで重要な疾患であることに変わりはないです。
図7:脳出血が減り脳梗塞が増える
図7:脳出血が減り脳梗塞が増える
(クリックすると拡大表示します)
 脳卒中のなかに出血、梗塞があるということをお話しましたけど、ちょっと古いデータで、98年までの人口10万人あたりの死亡率を示します。 紫色が脳梗塞で青色が脳出血なんですけれども、75年前後で脳出血で死亡する人よりも脳梗塞で死亡する人が増え、逆転しました。 脳梗塞は脳出血と比較すると、生じても命を落とすことが少ないので、脳梗塞は脳出血よりはるかに発症することが多くなっているということがいえます。 脳出血が減ったのは高血圧の治療がうまくいくようになったことが大きいと思います。下のグラフは、赤色が入院、青色が外来です。 病院に入院する人と外来に来る人とも、年齢とともに増加しています。いま高齢化社会、日本は誇れるほど長生きな社会ですが、脳卒中の人は長生きできればできるほど増えてくるということは言えます。
図8:脳卒中データバンク
図8:脳卒中データバンク
 日本の脳血管障害に関係した110の病院のデータを集計した脳卒中データバンクというものがあります。全体では4万5千人ですが、その75%、4分の3が脳梗塞が占めています。脳出血は18%ぐらい、くも膜下出血は7%ぐらいですね。
図9:脳梗塞
図9:脳梗塞
 ここから先は脳梗塞の話になっていきますけど、脳梗塞というのは単一の臓器の疾病の中では一番多く、死亡総数の2割とか、入院原因の2位とか、 寝たきりの最大原因であるし、医療費の約1割を占めて、訪問看護療養者の4割、介護保険の要介護4、5の最大の原因となっています。
図10:脳梗塞の分類
図10:脳梗塞の分類
(クリックすると拡大表示します)
 血管が詰まる脳梗塞というのはいろんな分類が実はあるんですけど、まずは3つに分かれるということをまずご理解いただければと思います。 ラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症です。ラクナ梗塞とアテローム血栓性は、さきほどお話したように血管の壁が厚くなることによって詰まるものです。 アテロームっていうのは太い血管のところが起こすものです。ラクナ梗塞は小さな血管におこるものです。心原性脳塞栓症というのは血管側には問題はないんですけれども、 心原性というのは心臓に原因があって、心臓から栓子という塊が流れてきて頭の血管に詰まります。こちらは血管には、いままで問題がまったくないわけで、 突然栓子が飛んできて詰まるとあっという間に脳が壊れてしまいます。従って、突然バタンと倒れるといった、ノックアウト型の脳梗塞、 しかもかなり大きな脳梗塞を起こします。
図11:脳梗塞の内訳
図11:脳梗塞の内訳
 これは脳卒中データバンクのデータで、いまの3つの病型がどれくらい頻度であるかということですが、だいたいいずれも3割ずつぐらいで、 アテローム33%、ラクナ31%、心原性27%となってます。ただし中国労災病院のような救急車がたくさん来るような病院では、重症の脳梗塞が運ばれることが多く、 呉はもともと住民の平均的年齢が高いこともあるので、心原性脳塞栓症がこのデータよりずっと多いように思います。
図12:認知症(病的な物忘れ)
図12:認知症(病的な物忘れ)
(クリックすると拡大表示します)
 ちょっと違った話をします。神経内科は脳卒中だけの科ではなくていろんな疾患のかたがこられますが、新規の患者さんのなかでも非常に多くなってるのがこの認知症という病気です。 物忘れは年齢とともに起こりますが、病的な物忘れになる病気です。認知症はいろいろ原因があるので、一番多いのはアルツハイマー型というものですね。 2番目は実はこの脳血管障害です。脳の血管が傷むものですね。日本人は昔から多いと言われておりましたけれども、今も2番目に多いんです。 大きな脳卒中が起こって広範に脳が壊れれば、記憶力も当然落ちますから、大きな脳卒中で認知症を生じるのは理解いただけると思います。 しかし、小さい脳梗塞では、一箇所ではまったく症状が出ずに気づかないこともよくあるんですけど、たくさん起こしてくると多発性脳梗塞という状態になります。 この図はMRIという検査の写真ですけど、真っ白になってますね。動脈硬化を起こして細い血管があちこち傷んでくるとこういう具合になります。 そうすると大きな麻痺があるわけではないけれど、頭が働かなくなってきてきます。脳血管性の認知症というんですけれども、これは決して珍しくはないです。 ただ、もっと怖い話があって、動脈硬化がある方はアルツハイマー型になりやすいということがどうやらあるようで、動脈硬化っていうのは脳梗塞だけではなくて、 アルツハイマーにもなりやすいことがわかってきました。
図13:脳卒中になりやすい人とは?
図13:脳卒中になりやすい人とは?
(クリックすると拡大表示します)
 で、本題に入りますけれども、「脳卒中になりやすい人とは」ということですが、生まれつき血管の奇形がある人とか、血液がすごく固まりやすい人なんかもおられます。 そういった特殊な脳梗塞の方もおられますけど、ほとんどは動脈硬化に関係します。動脈硬化はみんなに進むんですけども、いろんな血管にとって悪いことがあると早く進んじゃうんですね。 それを難しく言うと危険因子というものがあるということです。動脈硬化の危険因子を持っている人というのが、脳卒中になりやすいということになります。 危険因子ですけども、一般的によく問題になるのがここに書いてあることですね、年齢が高ければ起こるし、残念ながら男の人に常に多い病気です。 あるいは高血圧、糖尿病、脂質異常症、タバコ、それから肥えてるってことも因子になりますね。このうち黒色のものは変えようがないが、赤色のものは、努力や治療でなんとか変えることができます。 ここのことを頑張るっていうのが、今日の本題ですね。
図14:脳梗塞の再発率
図14:脳梗塞の再発率
 残念なことに動脈硬化が進んで脳梗塞が起こり始めると、血管のいたるところに動脈硬化を起こしていることに他なりません。 脳梗塞の患者は10年のうちに5人に1人が再発しちゃいます。だから起こしたあとも、実はいろいろ考えなきゃいけないんです。
図15:脳梗塞と動脈硬化
図15:脳梗塞と動脈硬化
(クリックすると拡大表示します)
 治療の概略を説明していきますけど、頭の血管が2本あるとして、1本を輪切りにするとします。血管は動脈硬化があり、さらに進んでしまい、だんだん詰まってきたとします。 閉塞しますね。これ頭の血管だったら、脳梗塞になったっということですね。そうすると、治療はどうするかと言うと、まずは先ほど言った危険因子の治療を、高血圧とか、糖尿病の治療をやります。 もう一つは、血液サラサラって最近よく言いますけど、抗血栓療法、すなわち、血液をちょっと固めにくくする、かさぶたを作りにくくするような治療を加えるということをします。 治療としては危険因子の治療と、抗血栓療法、血液を固めにくくする薬の2本立てです。とにかく危険因子の治療をして、抗血栓療法の治療をして、進めないことが重要です。 だから脳梗塞が起こる前に治療をすることを一次予防と言います。たとえば健康診断で、あなた動脈硬化の危険因子が、たとえば血圧が高いですよということになった場合には、 なんとか一次予防を始めるということですよね。だけども起こってからも二次予防として、まだ他に生きてる血管を守ることも重要です。 脳梗塞なり、心筋梗塞が起こる前後、どの時点からも、危険因子については慎重にならないといけんということです。
図16:抗血栓療法
図16:抗血栓療法
 先ほど言った抗血栓療法というのは、実は2種類あります。アテローム血栓性梗塞とラクナ梗塞を起こす方は抗血小板療法になるし、心原性脳塞栓症は抗凝固療法になります。 抗凝固療法については、最近新しい薬が出てきて、治療の選択肢が広がってきているんですけれども、今日は時間がないので割愛します。 抗血栓療法が開始されれば、生涯続けて飲まないといけないです。
図17:高血圧
図17:高血圧
(クリックすると拡大表示します)
 あと危険因子の話を簡単にしていきます。 高血圧については、多分、あとの松田先生が話をされると思うんですが、とにかく昔から動脈硬化を進行させる最大の危険因子だと、よく言われてますし、 実際に先ほどお示ししました、脳出血が減ってきているのは、先人がこれに対して頑張って 、お薬を開発して、あるいは患者さんに飲んで頂いて、 成果が出ているわけです。さらに減塩食、禁煙が大切です。タバコは血圧を上げる作用があります。適度な運動も必要です。程度は年齢によりますが、 長続きして、身体に負担のない、うっすら汗をかくぐらいがよいです。たとえば、30分程度のウォーキングとかね、週に3回ぐらいはするのが勧められています。 で、薬が出た場合はちゃんと飲んで、病院には必ず行くようにしてください。症状が出るまでが勝負ですから、しんどくなかろうが、症状がなかろうが続けることが重要です。 最近家庭内で血圧を測定しましょうって言われています。病院て緊張しますよね。あるいは白衣を着て、相手が機嫌悪かったりしますから(笑)。だから家でリラックスしたときに血圧を測るってことが今勧められています。
図18:収縮期血圧と脳卒中
図18:収縮期血圧と脳卒中
 ちょっとデータを示しますけど、収縮期血圧というのは高いほうの血圧です。脳梗塞の発症率、起こりやすさを示しています。男性は脳梗塞を起こしやすいですね。 白い方が脳梗塞、黒い方が脳出血ですけど、血圧が180とかになりますと大変なことになりますね。女性も同じようになりますね。今だいたい120から130がひとつのラインかなと言われ出してます。
図19:高血圧の治療目標値
図19:高血圧の治療目標値
 これは最近の高血圧のガイドラインです。脳梗塞が1回起こっている方、要するに二次予防ってことですけど、病院で測るのは140、90以下、家で測るんだったら135、85以下に言われてます。
図20:糖尿病
図20:糖尿病
 糖尿病っていうのはヘモグロビンA1c、7.0以下を目標にしましょう。最近ちょっと測り方が変わったので要注意です。食事腹八分目、バランスのいい食事、1日3回に分けて摂るということですね。 身長が160cmなら、1600kcalぐらいから1800kcalぐらい。で、食後に運動をしましょう。
図21:脂質異常症(高コレステロール)
図21:脂質異常症(高コレステロール)
 コレステロールは善玉、悪玉、中性脂肪ていうのがあるんですけど。悪玉と言われるLDLは140以上、善玉は40以下、中性脂肪は150以上を脂質異常症といいます。 とくにLDLを120以下、あるいは100以下になるようにコントロールするというのが今言われてますね。カロリー、コレステロールを制限したり、もちろん運動も必要です。
図22:肥満
図22:肥満
 肥満は直接的な話ではないんですけれども、肥えると、血圧、血糖、コレステロール、全部上がりますから、やはり痩せるってことは重要です。
図23:喫煙
図23:喫煙
 タバコは1日の本数と年数で喫煙指数というのがあるんですけど、400越えてるともう脳梗塞、心筋梗塞、肺癌等々すごくヤバイってことです。 しかし、「もう超えとるけえ、わしはええんじゃ」ではない。禁煙後2、3年経つとリスクは減ると言われているので今からでも遅くないということですね。 あるいは受動喫煙と言って横にいる人、煙が届く範囲にいる人も同じことなんで、周りも寿命を縮めます。だから喫煙というのはよくないですね。減らすじゃだめです。やめるということが非常に重要ですね。
図24:喫煙と脳卒中による死亡危険度
図24:喫煙と脳卒中による死亡危険度
 こういう風にタバコ1日20本を超えると、脳卒中の死亡率は跳ね上がりますね。目に焼き付けておいてください。
図25:飲酒
図25:飲酒
 飲酒については適量ならOKということで、さらには嬉しいことにちょっと飲む分にはいいっていう話もあるんですね。赤ワインなんかそうです。 ポリフェノールですね。ここに日本酒1合、ダブル1杯、焼酎ぐい呑み1杯、ビール中びん1本、ワイングラス2杯。まとめてこれだけ飲めればいいんですけど、 そうではないです、どれかひとつとうことなんですね。毎日飲んでいいかというとそうではなくて、週に2、3回は飲まない日をね、休肝日が必要です。 楽しく酔っぱらわない程度にということです。
図26:生活のポイント
図26:生活のポイント
 生活についてはまとめると、腹八分目、塩分、カロリーは控えめ、適度な運動を。案外重要なことは、今はシーズン過ぎましたけど、夏場は脱水だけでね脳梗塞で来られることが多いです。 外で頑張って働いてるおじさんなんかが脳梗塞を起こして来ることもあるし、冬場はお風呂とその前の部屋で、すごく寒暖差があると倒れる人もおられますね。 長風呂も避けるべきです。熱い長風呂は実は危険ですね。一番は心臓に危険だって言われます。
図27:脳卒中診療ネットワーク
図27:脳卒中診療ネットワーク
(クリックすると拡大表示します)
 脳卒中については診療ネットワークという考え方があります。脳梗塞で運ばれて来られると、僕らのような急性期病院では点滴治療などをするんですけども、リハビリがさらには要ります。 呉の場合、ひとつの病院で出来るようになっていません。うちの病院もリハビリ室は大きいし、優秀なスタッフがいますけど数が足りません。 もしも脳卒中で入院された場合は、その次、リハビリ病院が待っているということはご理解ください。 そのあと家に帰られる人はそれでいいんですけれど、帰れない場合は、いろいろ施設を利用したり、療養型の病院へ行ったりということもあります。
 また、動脈硬化の危険因子がとても重要だって話をしました。動脈硬化の危険因子は脳梗塞だけではなく、心臓の病気もそうです。実は、一番患者さんに近いところのかかりつけの先生が病態を把握しているということが重要です。 ですから信頼できるかかりつけ医をぜひ作って、脳梗塞の予防に心がけてください。
図28:血栓溶解療法(t-PA静注療法)
図28:血栓溶解療法(t-PA静注療法)
(クリックすると拡大表示します)
 残念ながら脳梗塞が起こった時にどうするかということを最後におはなしします。いま、テレビなんかでよくやっていると思いますけども、脳梗塞って血管が詰まる病気です。 血管の中に血栓ができて、ここから先流れなくなくなるわけです。理屈で考えたらこれを溶かしてしまえば、再開通で元に戻るわけです。 実際、そういうことも自然にあるんですけれども、がっちり詰まると当然そのままでは溶けないです。そうすると脳梗塞が時間ごとにどんどん大きくなってきます。 そこでt-PAというお薬を点滴する治療があります去年のフォーラムまでは詰まってから点滴開始までは3時間という説明が多分あったと思いますけど、この1年で4.5時間に延びました。だけど早ければ早いほどいいです。時間がかかるほど拡がってくるもので。
図29:t-PA治療のスケジュール
図29:t-PA治療のスケジュール
 発症から注射まで4.5時間。でも病院の中に来られてから、血液検査とか説明したりとか、写真撮ったりだとか、だいたい1時間かかります。 ということは、発症から病院に来るまで3.5時間です。まあ3時間ですね。前は2時間でしたから、1時間延びたわけなんですけれども。3時間って結構短いですね。 家で起こったり、仕事場で起こった時に、そばに医療従事者、医者がおれば脳卒中って言ってくれるかも知れないですけど、ほとんどはそうではないわけです。 ということは、脳卒中かなと疑えることが結構重要です。
図30:FAST(ファースト)
図30:FAST(ファースト)
(クリックすると拡大表示します)
 最近言われているのはFAST(ファスト)で、FASTは英語で「急いで!」って意味ですけれども、これはFace(フェイス)、Arm(アーム)、Speech(スピーチ)、Time(タイム)の頭文字をとったものです。 Faceは顔ですね。Armは腕です。Speechは言葉。Timeは時間。上の3つが症状ですね。この図ではこれらの症状を示しています。 チーズって言うときに、こっちの口の側がちゃんと動いてないんですね。顔が非対称になってる。あるいは腕を前に出してくださいっていうと、右腕が上がらない、もしくは落ちてくる。 それから、「今日は天気が良い」と言ってくださいと言ったのに、「ようはれんきが」とろれつが回らない。確かに寝起きにこういうことがあるかも知れませんが、 何にもないのに急にろれつが回らないとなると、これはおかしいわけです。脳梗塞というのは心筋梗塞とは違って、痛くならないので、要注意です。 こういったことが急に起こったら、Time、すなわち急いでやってきてください。顔、腕、言葉ですぐ病院へ。119番、もしくは専門病院へ。まあ、119番かなと思います。
図31:こんなときはすぐに病院へ
図31:こんなときはすぐに病院へ
(クリックすると拡大表示します)
 たとえば突然意識を失って倒れたり、頭痛が起こったり、吐き気が起こったり、めまいが起こったり、足がもつれたり、まあ意識を失って倒れたり、激しい頭痛があったらさすがに病院へ来られると思うんですけど、 このおじいちゃんの絵が結構重要だと思いますね。手足がしびれるとか、力が入らんとかいった症状は、逆向き、横向きになって寝たときに寝起きによくあって、 誰もが経験しますが、でもさっきまで寝てたわけでもないのに、例えばテレビを観よったら突然しびれてきたり、力が入らんかったりした場合は、これはおかしいわけですね。 急に起こった場合というのは、脳卒中じゃないかっていうことで、すぐに病院です。あとは物が2つに見えたりだとか、食べ物が飲み込めないとか、言葉が出ない、あるいは話せないということが起こった場合は、 すぐ病院です。
図32:一過性脳虚血発作(TIA)
図32:一過性脳虚血発作(TIA)
(クリックすると拡大表示します)
 今のような症状が、脳梗塞に似た症状が、15分ぐらいで元に戻ったとします。気のせいやと、良かった、良かったって話になるかっていうことなんですけれども、これは実はですね、 一過性の脳虚血発作だった可能性があります。英語の方が簡単で、TIAっていうんですけれども、これは詰りかけたってことなんですね。 それが幸いにして元に戻ってくれたんですけど、実はこの症状が起こると48時間以内に5%ぐらいの人が脳梗塞になる、3ヶ月で3割ぐらいの人が脳梗塞になると言われています。 従って、TIAのうちに治療を開始することが非常に重要です。治療を開始すると3ヵ月以内に脳梗塞になる人の割合を2、3%まで落とすことが出来ます。僕らも当直の先生については絶対に帰さないでって常々言ってます。 みなさんも5分か10分ほどしゃべれんかったことがあったら、まして繰り返し起こった場合は、必ず病院へ来てください。すぐに病院へ来てもらうことが重要です。
図33:脳梗塞の予防のポイント
図33:脳梗塞の予防のポイント
 脳卒中協会の毎年出るスライドだと思いますけど、これまでのはなしをまとめた十か条です。高血圧、糖尿病、不整脈、タバコ、アルコール、コレステロール、塩分、カロリーに注意しましょう。 適度な運動をして痩せよう。症状が疑われたら、すぐに病院へときて、お薬はやめないようにしてください、とかかれています。
図34:神経内科ドクター
図34:神経内科ドクター
(クリックすると拡大表示します)
 最後にうちの科を紹介しておきます。中国労災病院神経内科のスタッフです。20代、30代、40代で、フレッシュなメンバーです。杉本先生はこの10月から来てくれました。あとバリバリ働くレジデントも頑張っております。
 神経内科は本日お話した脳卒中だけではなくて、いろんな病気を見させて貰っています。認知症、めまい、頭痛、しびれ、てんかんもそうですし、いろんな病気があります。 毎日外来しておりますが、どういう病気があって、どういうお薬をもらってるかなどの情報が大切なので、なるべく紹介をかかりつけの先生からもらって来院ください。 ご清聴ありがとうございました。(拍手)

豊田:  はい、北村先生ありがとうございました。
 脳卒中の一般的なことから、とくに講演の最後のほうでは、どんなこと気を付けたらいいかということを教えてもらったと思います。みなさんは大切な症状を覚えられましたか?  「いー」と言ったときに顔が曲がっていないかとか、手が下がってこないかとか、言葉がうまく出てこないとかでしたね。 北村先生がおっしゃったように、こんな時にまあちょっと様子みようかとか、何かおかしいけど寝てまた明日治ってるかも知れないしなと言ってるうちに悪くなるので、 こんな時はとにかく急いで病院へ行ったほうがいいってことですよね?
北村:  そうですね、実際、かなり2、3日前からという方が多いですよね。
豊田:  来られてみると実は2、3日前からおかしかったという方が結構いらっしゃるということですね。まあ、急に倒れて救急車で運ばれる場合はすぐですけど、 逆に症状が軽い場合には、直接専門医を受診するのか、かかりつけの先生を通してという形になるのか、そこは多分みなさん迷うところですよね。
北村:  やっぱり、今日の話でいくとね、時間との争いなので、脳卒中かなというときは、かかりつけの先生には悪いですけど、すっ飛ばして来てもらっていいと僕は思います。 写真・北村 健さん
豊田:  講演で挙げられたような症状があって、これはおかしいという時は、もう遠慮なく。そういう時は神経内科を直接ポンと受診しても構わないということですね。
北村:  もちろんかかりつけの先生にはのちほど連絡したりしてますので、遠慮なく来てください。
豊田:  患者さんの立場からすれば、いつもよく診て下さるかかりつけの先生に対して遠慮もしますものね。しかし、脳卒中だって思われる時には、黙って専門医を受診しても、 後でちゃんと病院から連絡を取ってくれるということですね。それから、笑い話みたいな話ですが、お風呂入ってきれいにしてから病院行こうとか、 下着を替えてとか、お化粧直してからとかいう方がいらっしゃいますが、脳卒中は時間が勝負なのでそういうことは考えないようにしてくださいね。
 あとは、アルツハイマーにも動脈硬化が絡んでいるというお話でしたね。
北村:  そうですね、最近、糖尿病は少し前から言われてますけど、日常専門に診療をやっておられる先生ではだいぶ常識になってきていますよね。
豊田:  そうしますと、みなさんも我々も食生活を含んだ普段の生活習慣がますます大事になってきますね。食事では塩分や糖のこと、 あとはストレスの影響も大きいようですね。皆さん、夫婦喧嘩はしないようにとか、夜はゆっくり寝るようにとか、この辺りにも気をつけるようにしたらいいですね。
 はい、今日はどうもありがとうございました。北村先生にもう一度大きな拍手をお願いします。(拍手)
講演当時のものです)
 
<- プログラムに戻る
<- あいさつに戻る

2.「脳卒中と高血圧と心臓と」->

Copyright(c) 2013 Stroke Forum All Rights reserved