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【講演2】 脳卒中後の在宅医療・介護の現状
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豊田: 豊田章宏  介護保険法で定められた、地域住民の保健・福祉・医療の向上や介護予防、虐待防止などを総合的に行う所が地域包括支援センターです。 呉市には8つのセンターがありますが、この広地区は呉市東部地域包括支援センターの管轄になります。 今日はその東部地域包括支援センター管理者の島中さんと、社会福祉士の永澤さんのおふたりにお越しいただいております。 脳卒中後の在宅医療とか介護の現状について、知っておいていただくことは大事だと思います。 その上で、「我々に何ができるのか」、「今後どうしていかなければいけないのか」について考えていかなければならないと思います。 今日は身近な事例を提供していただきながら、呉市の介護の現状を学んでいきたいと思います。
 それでは、島中さん、永澤さんよろしくお願いいたします。(拍手)

写真・島中惠利子さん・永澤翠さん 島中惠利子 さん
   呉市東部地域包括支援センター 管理者

永澤翠 さん
   呉市東部地域包括支援センター 社会福祉士


島中:
図1:自己紹介:島中惠利子
図1:自己紹介:島中惠利子
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 こんにちは。まず私たちの自己紹介をさせていただきたいと思います。
 私は介護支援専門員の島中といいます。私は福岡県出身です。趣味は歌うことです。好きな食べ物はスイカなんです。 スイカはですね、子供の頃、おじいちゃん、おばあちゃんがスイカを井戸水で冷やしてくれて、家族みんなで食べたことを思い出すのでスイカが大好きです。
永澤:
図2:自己紹介:永澤翠
図2:自己紹介:永澤翠
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 社会福祉士の永澤翠と言います。私は高知県の四万十川沿いの西土佐村という所で生まれました。昨年、最高気温41℃を記録して少し有名になった所です。 子供の頃は、その四万十川で泳いだり、山で遊んだり、そういうことで過ごしていました。 いまはもう合併していて西土佐村という名前ではなくなったんですが、やっぱり村という地名に愛着を持っています。 ずっと無趣味だったんですが、何か始めたいなと思って、最近和太鼓を始めたところです。
 今日は多くの方を前に、少し緊張しています。どうぞ温かい気持ちで20分ほどお付き合いいただければと思います。よろしくお願いします。(拍手)
図3:地域包括支援センター
図3:地域包括支援センター
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図4:呉市の地域包括支援センター
図4:呉市の地域包括支援センター
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 まず、私たちが所属している地域包括支援センターについてご紹介したいと思います。
 みなさんは地域包括支援センターという相談機関をご存知でしょうか。 知ってらっしゃる方もいらっしゃると思うんですが、この機関は高齢者の方が住み慣れた地域で自立した生活を続けられるよう総合的に支援するために平成18年度から設置された機関です。
 イラストにあるように支援介護専門員、社会福祉士、保健士、これらの3職種が専門性を活かしながら連携を取ってチームで総合的、包括的に高齢者を支えます。
 少し見えにくいかも知れませんが、呉市を8つの地域に色分けしています。この8つの地域それぞれに地域包括支援センターが設置されています。 私たちが所属する東部地域包括支援センター、ここは阿賀・広・仁方・郷原地区を担当していまして、この建物の2階に事務所があります。
図5:地域包括支援センターの業務
図5:地域包括支援センターの業務
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 業務内容は、大きく分けて4つです。
 1つ目が総合相談支援事業。本人さんやご家族、地域、関係機関などからの様々な相談に対して、どのような支援が必要かを把握し、 必要な相談、必要な機関、制度、サービスにつなぎます。
 2つ目は介護予防ケアマネジメント事業。介護予防教室などの要支援・要介護になることを予防するための事業を行ったり、 要支援の認定を受けた方々の担当になって相談支援やサービスの調整などを行っています。
 3つ目は、権利擁護事業。成年後見制度の紹介や高齢者虐待の早期発見・対応など、高齢者の権利を守る業務を行います。
 4つ目が包括的・継続的ケアメネジメント支援事業。高齢者が住み慣れた地域での生活を続けられるように 居宅介護支援事業所のケアマネージャーさんと連携したり、地域づくりのお手伝いをしています。 簡単に言うと高齢者の方や介護保険の対象となられた方々の総合の相談窓口ということになります。
図6:医療・介護をとりまく社会状況
図6:医療・介護をとりまく社会状況
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 次に、今日の話の前提となる在宅医療と介護をとりまく社会背景を簡単にご説明したいと思います。
 まず、2025年問題。みなさんご存じかと思うんですが、日本では急速に高齢化が進んでいます。 団塊の世代が後期高齢者、75歳以上になり、2025年、あと10年ぐらいなんですが、その頃には3人に1人は65歳以上、5人に1人は75歳以上になると予測されています。 後期高齢者になると慢性的な病気や、複数の病気を抱える方が多くなります。 そうなると介護だけではなくて、医療や自立支援のサービスに対するニーズ、要望が高まりますし、医療のリスクもとても高くなります。 しかし、そういった状況を支えていくための医療保険や介護保険、その財源が限界にきています。 こうした状況から医療・介護は、早期社会復帰、住み慣れた地域で日常生活を営むことができるように、という方向へ向かっています。 高度な医療が必要な方にはきめ細かい医療を、リハビリが必要な方には身近な地域でリハビリを受けられる体制を、 そして退院後の生活を支える在宅医療や介護のサービスを充実させて、住み慣れた地域で日常生活を送ることが出来るようにしていくということです。 医療と介護と自立支援、これらが一連切れ目なくつながって、ひとりひとりを地域で支えていく仕組みが必要になっています。
島中: 写真・島中惠利子さん  今日お話しするのは、脳卒中後の在宅医療・介護の現状についてです。 厚生労働省データによると、実は、要支援・要介護の認定を受けた方々の介護が必要になった主な原因について見てみると、脳血管疾患が最も多く、 とくに男性の方ではその割合が高いという結果が出ています。
 地域包括支援センターには、さまざまな相談がありますが、その中で脳卒中後の自宅での生活について、相談をお受けした内容をご紹介したいと思います。 みなさんも、大切な家族の誰かが脳卒中で倒れたとイメージして聞いていただければと思います。実際の相談内容をいくつか挙げてみます。
図7:事例を紹介します
図7:事例を紹介します
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 先生や看護師さんから病状の説明を聞いたのに、頭が真っ白で何を聞いたか分からなかった。 病院から自宅へ帰る時のイメージが湧きにくく、何をどのように準備してよいか分からなかった。 家族さんから、本人は今までやってきたことだから自宅に戻っても問題なく何でもできると思っているので困っています。 高齢者が倒れた時に子供の間で、誰がどのように面倒を見ようかと悩まれて、方向性が定まらない時があります。 現役で働いてる方が倒れた時には、子供のことや仕事のことが気になって仕方がないと言われます。 介護保険のリハビリ施設は、高齢者の利用するイメージがあり、利用することに抵抗があるそうです。 こういったさまざまな相談に対して、関係機関と連携を図り、在宅生活をチームで支えるようにしています。これまで関わった事例を紹介させていただきます。
永澤: 写真・永澤翠さん  まず1つ目の事例は、在宅生活を安定させるために、複数の関係機関が関わった事例です。 男性、50代半ば、母親と二人暮らし、脳内出血を発症されて左半身に麻痺が残りました。 相談をお受けした時は介護保険の申請中で、その後要介護2の認定が出ています。 リハビリ病院で積極的にリハビリをされて、その成果があり、杖で歩くことができるまで回復されて、自宅でのサービスはとくに調整せずに退院となりました。 しかし、退院して数日後、ご家族から、退院してから自分では動かないので早急にリハビリをお願いしたいと相談が入り、ご自宅に訪問しました。 居宅介護支援事業所のケアマネージャーさんが担当となって、通所リハビリ、お迎えが来て、通いでサービスを受ける事業所なんですが、その通所リハビリを利用することになりました。
図8:50代半ば、男性の事例
図8:50代半ば、男性の事例
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その相談から3か月後、担当のケアマネージャーさんから母親に暴力を振るっていると相談が入り、再度、一緒に訪問となりました。 母親の髪を引っ張る、殴る、杖で叩く、激しい言葉を浴びせるなどの暴力がありました。 また、こだわりが大変強く、退院してから同じ洋服を着続けている、まったくやる気がない、食欲が異常で夜中に母親を起こして食事を作らせるといった行動もありました。 ケアマネージャーさんや地域包括支援センターが、かかりつけの総合病院や精神科の病院に相談した結果は、もともとの性格がエスカレートしているか、ストレスが原因ではないか、ということでした。 その矢先、母親への暴力行為により親子が一緒に生活をすることは危険を伴う状況となり、親子は別居することになりました。 母親への暴力行為ということで、その母親の権利擁護・虐待対応の観点からも、この件は行政、高齢福祉課のほうや、保健センターへも今後の対応について相談しました。 そこで保健センターから、高次脳機能障害、つまり脳の機能が障害を受けたために感情のコントロールが出来なくなって起こった症状ではないかとの意見がありました。 リハビリ病院や専門の医療機関に相談したところ、高次脳機能障害は間違いないとの意見でした。 そこで病院との相談の結果、暴力的な言動については、精神科の薬で安定を図りながら、介護保険サービスを導入して自宅での生活を支えていこうという方針が決まりました。 母親とは別居のまま、通所リハビリを利用して、運動機能の維持・向上を図ることになりました。 それから2年後、介護度が要介護2から要支援まで下がり、つまり介護の程度が軽くなったということなんですが、 再度お会いした時には、杖を持たずに歩くようになっておられ、ウォーキングなどで積極的に体を動かしたり、友人と外出したりされていました。 母親とは別居のままですが、買い物は自分で行い、配食弁当を利用して日常生活は支援を受けずにこなされていました。 脳の障害のために、ひとつの考え方にとらわれると他のことは受け付けられないという点はありますが、 ケアマネージャーさんやリハビリの先生が体調管理に助言をするなどして関わりを持ちながら、本人のペースで生活することが出来るようになっていました。 それから2年後には精神的にも安定して生活されており、母親が自宅に戻ることになりました。 母親も介護保険の認定を受け、親子がそれぞれにサービスを利用しながら同居されています。 深く関わり干渉し過ぎると精神的に不安定になる恐れがあるため、それぞれが自分の食事は自分で手配するなど、適切な距離を保ちながら、双方に自立した生活を送っておられます。 また、この間には就労を目指して相談を始めるといった前向きな変化もありました。 今日、このお話を事例として紹介しても良いかというふうにケアマネージャーさんが本人さんに相談したところ、自分でお役に立てることならどうぞ紹介してください。 これで自分の就職が決まっていたらもっと良かったですね、というような発言がご本人さんからあったということです。 ケアマネージャーさんからは、こういった言葉が本人さんから出ること自体が、一番初めに関わり始めた時には想像できなかったので、 とても感動しましたというふうに報告がありました。
図9:60代半ば、女性の事例
図9:60代半ば、女性の事例
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 2つ目は、ご本人が目標を持ってリハビリを行って状態が回復し、自宅で生活されている事例です。 女性、60代半ば、夫と二人暮らし、脳内出血で倒れました。 最初は厳しい現実を突きつけられて夫婦で泣いておられましたが、妻は夫を残して死ぬことは出来ないとタオルを首に巻いて必死にリハビリに励みました。 夫は毎日病院に面会に行き、妻がリハビリをする姿を見守りました。夫に話を聞くと、自分が来ることで、リハビリの先生も必死にやってくれる、 心に余裕が出来るようになってきた、と話されていました。 妻は、もう一度元気で自宅に戻りたい。夫と一緒に今までと同じように生活がしたい、という気持ちを糧にリハビリを継続し、 杖を使用せずに歩ける状態で退院することが出来ました。 リハビリは大変辛かったけれども、先生や周りの人のおかげで頑張ることが出来た。 首に巻いていたタオルには、自分の汗と涙が染みついていますという言葉を残されて、現在もご夫婦で自宅での生活を頑張っておられます。
島中:
図10:関係機関、専門機関との連携
図10:関係機関、専門機関との連携
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 2つの事例から 言えるポイントを挙げてみたいと思います。
 1つ目の事例の方は、病院で順調に回復し退院しましたが、実際に退院してみると、脳の障害により、とくに感情のコントロールが難しくなったことが、 母親との関係に影響を与えました。ここでのポイントは、ケアマネージャーさんや医療機関、行政と連携を図ることで病状をきちんと把握することができ、 病状に沿った対応を周囲がとることができるようになったことです。 包括支援センターが受ける相談の中では、自分たちの専門である介護保険の分野でけでは対応できないことが数多く、医療機関や行政と連携を図り、 必要に応じて専門機関に相談をつなげるようにしています。
図11:本人が持っている強み
図11:本人が持っている強み
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 2つ目の事例では、本人が自宅でどういう生活を送りたいかという目標をしっかり持てたことが、回復につながる大きなポイントだったと思います。 やはり本人がやりたいこと、目指す在宅生活をしっかりイメージ出来ることは強みになると思います。 地域包括支援センターでは、退院後のリハビリについて相談を受けた時、通所リハビリや訪問リハビリを紹介することが多いですが、 時には家族や周囲がリハビリをさせたいと希望するものの、本人があまり乗り気でないという場合もあります。 リハビリをすることが目的ではなくて、リハビリは目標達成の手段、本人がどこでどういう生活をしたいのか、何をしたいのかという目標を引き出して、 本人が蚊帳の外にならないように、本人を中心とした支援を行うことが必要だと思います。 また65歳未満で介護保険サービスを利用する時には、通所サービスでは周囲の人たちと年齢差があって、利用しづらいと感じることが多いようです。 短時間だけで利用できるリハビリ施設や、訪問リハビリの需要は大きいと考えています。 地域包括支援センターには、本人、家族、医療機関、民生員さんら脳卒中を含めた疾病を発症した後の相談や、認知症の相談など、いろいろな相談が入ります。 これらの相談の中では、混乱していて何を相談してよいか分からないと漠然とした話をされる方も多いので、 本人の心身状況とか疾病、家庭環境などを聞かせていただき、在宅生活にどんな心配があるか一緒に整理し、 本人、家族、自宅での生活を維持できるようにしていきます。そして望む在宅生活に向けて、介護保険サービスや社会資源を調整していきます。 この相談対応の過程では、包括内部の連携とか医療関係、居宅支援事業所、行政など関係機関との連携を図ります。 私たちひとりでは誰かを支えることはできません。医療機関との連携、さらには民生員さんや自治会の方をはじめ、地域のみなさんに協力いただいて、 はじめて私たちは相談業務ができるのだと実感しています。 また、私たちは相談を受けながらも、相手から学んでいることが多く、人との関わりの中で教えていただいたり、元気をもらうことが多いんだと、 日々感じて仕事をしております。
 最後に、今後の医療と介護は、ひとりひとりが住み慣れた地域の中で、主体性を持って生活できる社会づくりを目指す、地域で支えるという考え方に向かっています。 これからますます地域の皆さんにご相談させていただくことになると思いますので、引き続きご協力よろしくお願いいたします。
 ご清聴ありがとうございました。(拍手)

豊田: 豊田章宏  島中さん、永澤さん、どうもありがとうございました。行政関係の方を前にしてなかなか言いにくいのですが、お役所にはいろんなセクションがあって、 高齢者はあっち、障害者はこっちと、介護保険や福祉関係の窓口というのも結構分かりにくいですよね。
 医療もだんだん複雑になってきました。昔だったら運び込まれた病院で治療してもらえば、 メドがつくまで入院して方向性を決めてもらえて良かったのかも知れないのですが、この10年ばかり国の政策がどんどん変わってきて、 入院した時から退院の話をされたりします。国はどんどん変わっていくので、逆に我々は地域で、呉なら呉の皆さんで考えながら、 自分達はどうしたいのかということを考えていかないと、国からの指示を待っているとなかなか進みません。 そこで、我々も医療の専門家ではありますけど、お互いのことを知らな過ぎたということもありますので、 島中さん達もおっしゃたように医療も介護ももっとお互いの顔が見えるようにして、皆さん地域の住民の方々とももっと顔が見えるようにして、 じゃあ、どのような地域を作っていくのかを一緒に考えていかないと解決しないと思いました。
 最後にお二人に確認です。多様な問題で相談したい時は、病院であればソーシャルワーカーさんが窓口になりますが、 地域で相談がある時は、まず地域包括支援センターを訪ねてよろしいですか? 別の対応が必要な場合には、 適切な役所の部署や担当者に振ってもらってもよろしいでしょうか? お二人が頷かれましたので、皆様も介護福祉で困ったことがあったら、 まず地域包括支援センターに相談してみましょう。決してひとりで抱え込まずに、色んな情報を教えてもらって、適切に動くようにしましょう。
 では、本当にありがとうございました。お二人に再度大きな拍手をお願いします。(拍手)

 それでは、ここでちょっと10分間ほど休憩をはさみます。ホールの外ではセラバンド体操と街の保健室をまだやっておりますので、 休憩時間の間にどうぞ参加してみてください。
講演当時のものです)
 
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