【講演2】 嚥下のメカニズムと嚥下障害について |
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横江裕幸 さん 中国労災病院耳鼻咽喉科 医師* こんにちは。中国労災病院耳鼻科の横江といいます。 当院の耳鼻科で、嚥下機能検査を担当しています。嚥下のメカニズムについてできるだけわかりやすく、かみ砕いてお伝えできるよう努めたいと思います。
嚥下障害になると食物摂取が困難となり、脱水症や栄養障害を生じたり、食物が気道へ入る誤嚥を生じたりすることで身体に重大な影響を引き起こします。 また、食べる楽しみを喪失することは、生活の質を非常に落としてしまいます。
鼻腔と口腔は奥で、咽頭という一つの空間につながっています。いったんつながった通路は喉頭で空気の通り道が分かれていきます。空気は気管を通って肺に出入りします。 食物は食道を通って胃へ落ちていきます。 こうしてみると、空気と食物の通り道は、いったん合流して、また分かれていきます。うまく仕分けをする仕組みが必要だとわかります。
先ほどの図と同じように、鼻腔・口腔・咽頭・喉頭・気管・食道があります。口にバリウムを溜めています。 黒いバリウムがあっという間に落ちていきました。 スローでは、黒いバリウムが舌の働きで咽頭に押し込まれると同時に、喉頭が上がり、気管の後方の食道へツルッと落ちていきます。気管には入っていません。
嚥下運動を行う前には認知期という状態があります。食物を認知して初めて食べる行為につながります。 美味しそうだな、いい匂いだな、など感じることで、食欲が高まり、食べる気持ちの準備ができます。 口腔準備期は、食物をかみ砕き、唾液と混合して、嚥下しやすい形に整える段階で、「もぐもぐ」です。自分の意思で行う動作です。 どのように噛もうかとかは特に意識しないので、半分自動で行う動作です。 口腔期では、舌を上あごにしっかり押し付けて、食塊を後方の咽頭に送り込む段階です。ごっくんの「ごっ」です。 基本的に自分の意思で呑み込みのスイッチを入れます。
鼻への通路をふさぎ、舌で咽頭へ食物を押し込むと同時に、喉頭が上がって気管への入り口を閉じます。 咽頭の壁が上から順にぎゅーっと縮んで、食物を食道の方へ絞り出すと、食道の入り口がパカッと開いて、食物は食道へ落ちていきます。 考えている暇はなく、全自動で動く動作です。 食道期は蠕動運動です。胃まで絞り込みで食物を運びます。 もう一度、バリウムを飲み込むのを見てもらいます。もぐもぐごっくん。スローで見てもあっという間です。
直接目で見られるという利点がありますが、鼻が痛くてのどが気持ち悪いのが欠点です。
口の中には舌があります。のどちんこの奥が咽頭です。鼻の穴からカメラを入れます。 鼻腔を通り抜けると咽頭です。下に向かって進むとのどちんこがあり、さらに喉頭が見えてきます。 エーっと声を出してもらうと、声帯が閉じるのがわかります。喉頭の後ろに空間が見えます、ここを下咽頭といい食道の入り口になります。 今は行き止まりですが、嚥下のときにはパカッと開きます。 息を吸うと声帯が開きます。この奥が気管で空気の通り道です。こちらに食べ物が入ると誤嚥です。誤嚥するとひどくむせます。 今度は唾を飲み込んでもらいます。空嚥下といいます。嚥下の瞬間には咽頭は収縮して絞り込むので、カメラには何も映りません。これをホワイトアウトといいます。
スローで見ると水が飛び込むと同時に咽頭が絞り込まれます。視野が開けると、上がった喉頭が下りていくのがわかります。 正常の嚥下では飲み込む瞬間と、飲み込んだ後の何も残っていない様子しか見ることができません。
スローです。少し壁にヨーグルトの名残があるくらいです。
うどんを食べるとどうなるのでしょうか。ちょっとすすりにくそうです。もぐもぐします。 のどに降りてくるときにはちゃんと飲み込みやすい形になっています。ごくんと飲み込んで消えてしまいます。しっかりもぐもぐよく噛むことは大事なことなのです。
口や喉の形の異常をおこすものでは、炎症や腫瘍で腫れてしまう、舌や咽頭の癌の手術で欠損してしまう、背骨の棘がのどを押して狭くする、などの病気があります。 動きが悪くなる異常をおこすものでは、脳卒中による麻痺をはじめ、さまざまな神経や筋肉の病気があります。 また、食欲不振や認知症やうつなど心の異常も、嚥下に悪影響を生じます。
口腔準備期は偽性球麻痺や舌癌術後などで障害され、口から食物がこぼれたり、丸のみしかできなくなったりします。 口腔期では、偽性球麻痺などで舌の運動障害がおこると、舌が上あごにしっかり固定できなくなり、嚥下できないまま口の中に食物をため込んだり、嚥下後に口腔内に残留したりします。
咽頭期の障害では、一連の運動がうまく働かないことで、誤嚥・咽頭残留・通過障害が問題となります。
口腔期の障害では、舌を上あごにしっかり押し付けて食物を咽頭へ押し込むことができなくなります。 ウングウングするばかりで、バリウムが咽頭へなかなか入っていきません。
内視鏡検査では咽頭の収縮が不十分なため、のどちんこのレベルで隙間が空いているのがわかります。 造影検査でみると、鼻の方へ圧力が逃げるためにバリウムが鼻腔へ逆流してしまっています。
唾液が下咽頭にたまって気管の方へ溢れようとしています。嚥下しようとしても喉頭は上がらず咽頭も収縮しません。唾液は溜まったままです。 次は、唾液はあまり溜まっていませんが、やはり収縮は不十分です。水を飲んでもホワイトアウトしません。 一生懸命飲み込もうとしても、食道へ通過できずに咽頭に溜まってしまいます。 造影検査でみると、喉頭の上りが悪く、バリウムが下咽頭へ溜まってしまいます。食道へは少しずつしか入っていきません。一口飲み込むのが大ごとです。
左の咽頭麻痺です。右側は収縮していますが、左側は緩んだままです。ホワイトアウトもしません。 造影検査では、のどの動きが全体に悪い上に、食道入口部が開かないために、バリウムが通過できていません。 唾液がたくさんたまっています。左咽頭の麻痺を認めます。水を飲んでも通過しないので、おぼれてしまっている状態です。 これでは口から食事をとることはできません。
水がジャバッと気管の方へ入ってしまいました。ムセて水を吹き出しますが、また気管の方へ入ってしまいます。 バリウムが気管の中にツルツルっと入るのが見えます。 一口の嚥下でこれだけ誤嚥してしまうと、肺炎となる危険が非常に高いために、残念ながら口から食事はとれません。
ところが、麻痺や筋力低下などで動きが悪くなったり、手術などで形が変わったりして、一連の運動がうまくいかなくなると、 嚥下障害を生じて、嚥下困難や誤嚥をきたします。 食事に興味がない、ボーっとする、ウトウトするという、認知症や意識障害の時には、さらに嚥下に悪影響を及ぼします。 嚥下障害を生じてしまったら、より安全に食べるための様々な工夫や、機能を回復させるための訓練が必要となります。 これにつきましては、次の講演で詳しくお話しいただけると思います。 ご清聴ありがとうございました。(拍手)
(*講演当時のものです)
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