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【講演】 脳卒中とリハビリ
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甲斐雅子 甲斐 雅子  中国労災病院 作業療法士

 私が学生時代「リハビリテーション」という言葉を知っている人はほとんどおらず、 進路指導の先生に聞いても全く情報を持っていませんでした。今では「脳卒中にはリハビリ」と患者さんが熱く語るほど、 リハビリという言葉は市民権を得た感があります。ただ「リハビリの最大の目的は何ですか?」と聞くと多くの人は 「何だろう?」と考えるのではないでしょうか。その答えは"生活の回復"です。これは脳卒中だけでなく、 骨折などの整形疾患あるいは精神疾患でも、対象が小児でも老人でも、 はたまた医療だけでなく福祉や保健の場でも共通する目的です。では生活の回復に向けて リハビリスタッフがどんなことをしているのかを具体的に紹介していきます。
 我が中国労災病院では脳卒中の早期リハビリが実践されているため、 リハビリの開始はほとんど病棟のベッドサイドから始まります。急性期からリハビリが関わることにより二次的障害、 たとえば関節拘縮や廃用性の筋力低下を防ぎます。
 リハビリというと平行棒で歩く練習をしているシーンを思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。 リハビリが始まると患者さんやその家族の方から「歩けるようになるでしょうか?」とよく聞かれます。 歩くためのリハビリには多くの患者さんが熱心です。しかし目的の場所にたどり着いてもなにも出来ず、 介助者がついてまわらなければいけない状況に直面すると、歩くだけでは問題は解決しないことに患者さんや家族の方も気づきます。
 したがって目的の場所に行ったらどう動けばよいのか。またどんな道具があれば安全に動けるのかということも指導していきます。 「トイレに一人で行きたい」と言われる患者さんは多いのですが、歩くことより難しいのが 狭い場所での方向転換やズボンの上げ下げです。健側誘導の移乗訓練を行いながら立位でのバランスがよくなってきたら ズボンの上げ下げなどの練習も行います。
 移動能力も大切ですが、生活を回復させるためには様々な作業活動が必要になってきます。 患者さんが退院後主婦業をしなくてはならない場合、作業療法ではいろいろな工夫を教えています。 たとえば片手で調理するために木製のまな板にステンレスの錆びない釘を打ち食材を固定させる工夫や、 まな板の角にプラスチックの板を取り付けて箱の蓋あけなどに利用する工夫などがあります。 このような道具の工夫を、自分を助ける道具ということで"自助具"と呼び作業療法で作成します。 また最近は障害を持った方用にいろいろな自助具がかなり市販されており、 退院後利用したら便利と思われる機器や道具の紹介を行っています。一方、動作の工夫は特別な道具を持ち歩く必要がなく 一番便利な方法です。ふきんや雑巾は蛇口のカランを利用して絞ると硬く絞れます。 瓶の蓋あけは体のいろいろな部分を使って可能です。座って開けるときは股に瓶を挟んで開け、 立って開けるときは引き出しを開けそこに瓶を挟んで腰で引き出しを押さえて開ける。このような動作の工夫も紹介しています。
 生活の回復を目指して、病院内では将来の生活様式を念頭に置き、 日常生活動作の訓練・道具の工夫・動作の工夫を紹介していきます。しかし病院というのは特殊な環境ですので、 本当の意味での生活の回復は退院後のリハビリにかかっているわけです。そのため患者さんの家に出向き、 在宅で関わる保健婦さんやヘルパーさんに、患者さんの移動能力や介助方法を伝えることは重要です。 地域での生活を支えてくれる家族や保健婦さんたちと連携をとることで病院内でのリハビリが 実際の生活に生かされていくことになります。
 患者さんが退院され家に帰ったとき、ぜひ実現したいのが外出を楽しみ地域社会と関わりを持つということです。 今日この脳卒中フォーラムに来られている方は立派にそれを実践されているわけですから、 脳卒中リハビリのお手本ともいえます。送迎してくださる通所訓練やデイサービスあるいは脳卒中の仲間と集う会など、 まずは出かけやすいところから参加していくのも良い方法かもしれません。 せっかく家に戻られた患者さんたちが家の中に閉じこもらないように、地域全体で支えていく必要があると思います。 以前は病気そのものが閉じこもりの原因と考えられていましたが、最近では心理的要因、 環境要因による閉じこもりも多いことが知られています。また閉じこもることにより痴呆や寝たきりが引き起こされます。
 リハビリの最大の目的は"生活の回復"だということをわかっていただけたと思います。 従って病院で行われるリハビリはそのほんの一部であるといえます。 地域に戻られて毎日の生活の中で行う活動こそリハビリテーションそのものであるといえるでしょう。 この脳卒中フォーラムは今回で4回目ですが、在宅で立派に生活を回復され、 寝たきりにならずに今日参加されている皆様にまた会えるのを楽しみにしています。
講演当時の役職です)

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