トップページへ
【講演】 脳卒中後のリハビリテーション
トップページ第7回講演会>【講演】脳卒中後のリハビリテーション

豊田章宏 豊田 章宏  中国労災病院 リハビリテーション科

【プロローグ】
この講演会の前半部分には色々な病気の知識についてのお話がありました。どうしたら脳卒中にならないのかという、ありがたいお話もありました。 でもそれを守っても、もし脳卒中になったらどうするのというお話もあるわけです。「わたしは何にも悪いことをしてないのに・・・」 だけども不幸なことになってしまうということは世の中には必ずあります。 大酒飲んで、大飯食って、タバコも吸い放題という好き勝手に生きて脳卒中になったのならまだしも、 命よりも健康が大事といわんばかりに一生懸命に努力していても脳卒中になる方もあるわけです。 そんな場合にはどうしたらいいのでしょうか。
ここからのお話は、リハビリテーションと介護が主体となります。一旦障害というものを背負ってしまいますと、 程度の差こそあれそれは一生ついて回ることですから、御本人だけでなく御家族を含めてリハビリテーション治療や介護に参加していただくことが必要になります。 今度介護保険という制度が誕生します。在宅であるいは施設における介護の場面ではどうしたらよいのかというのが、 私の話とそれに続く楠先生の話になっていきます。

【脳卒中はわが国の国民病】
さて、本日この会場の中で、ご自身も含めたご家族の中に、脳卒中に罹った経験があるよという方はいらっしゃいますか? 手を挙げていただきありがとうございました。ざっと見ても会場の半数以上いらっしゃいました。 それだけ脳卒中とは多い病気だと思うんですね。わが国における国民病とも言われています。この脳卒中の何が大変かといいますと、 脳卒中になっても、症状そのものが軽く済んで、本当に治ってしまう人はいいんですけれども、 殆どの方には手足が動かないとか言葉が出にくいとか何かしらの障害が残ることが大変なのです。 そして重症の場合には寝たきりの原因にもなります。実際にわが国の寝たきりの原因の4割は脳卒中です。 また、人間は悲しいかな誰しも歳をとっていきます。こういう障害がある上に歳をとっていきますと、 もともと元気な方の老化現象と較べて非常に著しいものとなることは簡単に予想がつきます。その結果、 ご自身の努力だけでは生活に対応しきれなくなります。医療だけでなく福祉や行政を含めたもっと大きな視野で対処していかなければ解決しない問題と思いますが、 まだまだこの点についてはわが国は遅れた点が多いと思います。

【脳卒中と医療制度】
例えば皆さんが脳卒中になって、どこかの救急病院に搬入されたとします。CTやMRIなどという最新の診断機器が駆使され、 集中治療室に入り、様々な先端治療が開始されます。そしてなるべく早い時期にリハビリも始まり、 残された能力を最大限に引き出すような治療が開始されます。しかし、ある程度経過しますと必ず退院の話が出てきます。 なぜでしょう。現在のわが国の医療制度は、病院を入院日数という枠で分類しています。 救急が主体の急性期病院では平均入院日数を20日程度で治療しなければなりません。 逆に病院のベッドが空かなければ次の救急患者さんを受け入れることができなくなり、救急病院として機能しなくなるのです。 しかし、リハビリに必要な日数というのは、その患者さんの障害の程度によって違うのが当然です。 本当に軽い方は2週間程度でもいいかもしれませんが、重度であれば入院期間は半年以上もかかる可能性があります。 しかし、その期間を一つの病院でずっとみてくれるのかといいますと、現実問題として先ほど述べたような日数制限があるために難しいわけです。 では、このような社会状況できちっとリハビリを継続していくことが出来るのでしょうか。 そのためには病院同士の連携がうまくいかなければなりませんし、病院でのリハビリが終わったあとでも施設であったり、 御自宅での在宅介護等であったりをつないでいくことが重要となります。これは医療だけでなく福祉とか行政とか、 社会全体の問題になってきます。当然患者さんやご家族だけでは出来ないことですし、我々のような医療機関や福祉施設だけでも不十分です。 今後はやはり行政を含めた社会全体のバックアップが必要となります。今日は呉市保健所所長もいらっしゃっています。 是非こういう各方面の人々が集まって、こういう会を通して考えていくべきじゃないでしょうか。 皆さんからそういう要望がどんどん出てくれば、やはり地域や国もそういった動きをしてくれるようになると思うんですね。 国からの御沙汰を待っていてもなかなか後手後手にまわって追いつかない面がありますから、 みんなで現場からそういう雰囲気を作っていきたいと思っております。

豊田章宏 【脳卒中後のリハビリテーション】
それでは、話をリハビリテーションに戻しましょう。脳卒中後のリハビリテーションはその時期によって分けられます。 まずは発症直後(急性期)です。急性期というのは人によって違います。「脳卒中になったばっかりなのにまだ動かしたら早いよ」 という先生もあれば、「なった日からリハビリをせんにゃいかん」という二通りの考えがあると思います。 私はなった日からやるべきだと思います。皆さんちょっと考えていただきたいのは、運動せずに1週間寝てたらどうなりますか?  たとえ病気でなくても急には歩けませんよね。同じことが脳卒中にも言えます。発症後1週間ずっと寝ていて、 さぁリハビリしましょう、起きましょうといってもそれは無理な話です。それにリハビリといえば何でもかんでも無理矢理にたたき起こすわけではありません。 皆さん方はどうもリハビリといったら歩くことだと思っておられる方が、お医者さんも含めても多いんですね。 ベッドに寝ている状態でも、そこにリハビリスタッフが行って、手足が硬くならないように動かすことからリハビリは始まってます。 それを含めて急性期リハビリといっているわけです。
 こういった急性期を過ぎますと、回復期とよばれる時期がやってきます。この急性期から回復期を含めた最初の約3ヶ月間がもっとも機能回復が認められる時期です。 しかし、悲しいかな、その回復できる程度は、脳のやられた場所や大きさによってある程度決まっています。 小さなやられ方であれば小さい障害ですし、大きな障害があれば障害は大きいわけですね。そうすると同じ脳卒中でも、 患者さまによって脳卒中になった後の能力がもともと違ってくるわけです。つまり軽い人であればほとんどもとの状態になりますが、 重い人であれば、ここまでしか治りませんよというゴールラインというものがどうしてもあるわけですね。 そうすると、それぞれの目指すゴールのところまでをきちっと治療を受けてリハビリをして、そこまで到達したら、 じゃあ次はどうするのかが大切になるわけです。社会復帰が可能なのか、ご自宅で生活できるレベルなのか、 もっといえば自分の人生楽しみが持てるのかどうか・・・ これが障害の受容と言う大きな課題となるのです。 しかし、これを乗り越えなければ訓練のために毎日生活するようになりかねません。目的をきちっと持つ事、 そのためにはこの病気の方がどこまで治るのか、という評価をきちんとしなければならないですね。 それからしかるべき治療と訓練を受ける。そういった道筋が正しい脳卒中に立ち向かう態度となります。
急性期、慢性期を過ぎますと、次は維持期になります。維持期というのは、ほんとにおうちに帰ってからどういうふうに毎日を過ごしていくかということになります。 つまり生活そのものがリハビリと言える時期です。この時期では介護保険が主体となっていくでしょうし、内容は次の楠先生のお話に託すことといたします。
 ただ言えることは、この時期になりますとリハビリの効果を引き出すのは殆どご自身の努力になります。 他力本願ではできないんですね。リハビリをやってもらうのではなく、ご自分でやる、やった効果が自分に返ってくることになってきます。 ところがそれがあまり使命感を帯びてきますと、非常に辛いものになりますので、できれば楽しんでやっていただきたいと思います。 それと、ご自分で頑張りすぎないで、うまく社会資源や制度を利用されることも大事だと思います。 中には人に迷惑をかけたくないから、そういう制度は使いたくないという方もいらっしゃいますけれど、国がせっかく作っている制度でありますので是非ご利用いただきたいと思います。 それから社会や地域への参加をお勧めしたいと思います。今日、こうやってここに集まっておられるように、いろんな集まりに積極的に参加することが大事だと思います。

【脳卒中を取り巻く諸問題】
 最後に脳卒中を取り巻く様々な問題を考えてみましょう。まず最近の問題は皆さんもご存知のように少子高齢化ということです。 どんどん平均寿命が延びていきますが、もし障害が残った場合、高齢者がお一人でお家で生活することは困難な場合が多いのです。 面倒を見れるお子さんがいないとか、連れ合いが既にいないとか、介護する方も高齢化してきますので、 その方が倒れてしまうケースも多いんですね。そういった2次災害も防ぐべきと考えています。
 リハビリの問題点を挙げたいと思います。急性期のリハビリばかりが今脚光を浴びている面があるんですけれども、 実はそれだけではなくて、そこから先、患者様の持っている長い生活の中で本当に大事なのは維持期になるわけです。 急性期はほんの数ヶ月ですから、そのあとずっと生活していくためのサポートの部分がまだ遅れているところがあります。 最初に申し上げましたが、リハビリ医療の継続は困難であり、たとえば急性期病院から転院される場合でもリハビリを継続できる病院がない場合もあります。 特に地域の差が激しいことが多くあります。病院が無い地域もありますし、リハビリができないところもあります。 そういった地域の格差、施設間の格差も問題になります。さらには、リハビリに対する誤解もあります。 それは患者様だけでなくて、医者側のほうにもそういう誤解があると思います。例えば、「リハビリをすればすべてが治るんだ」と言う誤解です。 先ほど申しましたように、回復できるところまで戻るんであって、100%元の状態に戻るわけではありません。 それから、「状態が落ち着いてからリハを始める」これも間違いです。早いほうがいいと思います。 「リハビリで入院日数が長くなる」、それはリハビリを始めるのが遅いから長くなるんであって、早くやれば逆に早くなります。 それから、「リハビリは担当のセラピストにやってもらうものだ」と。そうじゃなくて、自分でやるのを我々はお手伝いするのに過ぎないんだということ。 それから、逆に一生懸命に練習されている方、「よくならないのは自分の訓練が不足しているからじゃないか」と思われる方。 自分を責める方。そんなことはありません。「やればやるほどよくなる」、やりすぎてもよくないですね。 やりすぎたために関節の痛みがでるとか、いろいろあります。それから、「病院の中でのリハビリは最高だ」。 リハビリの目的は病院の中で暮らすことではなくて、おうちに帰ったり、社会に参加することですので、それも間違いだと思います。
 こういった様々な問題点や疑問点をこういう会を通してみなさんできっちり考えて、それから患者様と病院、 病院だけでなくて地域、保健所も含めて今後どうしていくかを考える。そういう会に、 この脳卒中フォーラムがお役に立っていければと考えております。ご清聴ありがとうございました。
講演当時の役職です)

Copyright(c) 2005 Stroke Forum All Rights reserved