【講演】
脳卒中予防と食生活:食から見直そう
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第10回講演会
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向田 富子 中国労災病院 栄養管理室長
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みなさん、こんにちは。ただいま、紹介いただきました中国労災病院栄養管理室の向田です。
本日は、よろしくお願いいたします。
脳卒中予防と食生活〜食から見直そう〜のテーマで、お話させていただきます。
今日、お越しの皆様は、新聞や雑誌等で色々な知識をお持ちだと思いますが、少しでも参考になれば幸いです。
●脳卒中の原因
脳卒中は主に動脈硬化が原因です。
動脈硬化は、過食・塩分のとり過ぎ・運動不足など、いわゆる生活習慣病である高血圧、糖尿病、高脂血症や肥満など様々な要因が重なり動脈硬化を招きます。 特に、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙は四大危険因子と言われています。 「死の四重奏」と言う言葉を、耳にされたことがあると思いますが、これは内臓肥満、高血圧、高脂血症、高血糖の4つがそろうと、 動脈硬化という死への序曲を奏でるという意味で「死の四重奏」と呼ばれています。いずれにしても動脈硬化は危険因子です。 動脈硬化は、動脈の壁が肥厚して弾力を失った状態で、進行するにつれて様々な症状が現れ、放置しておくと、脳榎塞や心筋梗塞の要因となります。 動脈硬化を防ぐには、高脂血症だけでなく、高血圧・高血糖・肥満の予防や改善が必要です。
これから、これらについてのポイントをお話させていただきます。
○高血圧とは、
高血圧の診断基準
収縮期血圧
(mmHg)
拡張期血圧
(mmHg)
至 適
120未満
80未満
正 常
130未満
85未満
正常高値
130〜139
85〜89
高血圧
140以上
90以上
血圧は、健康のバロメーターです。 高血圧は、脳卒中や心臓病などの「循環器病」の大きな危険因子となります。 男性は5人に1人、女性は7人に1人が高血圧といわれています。 血圧が2mmHg下がることで、2万人の死亡率の低下が予測されています。
伝統的に、日本人の食卓には、塩分の多い科理が並ぶ傾向にあります。 食塩の1日あたりの摂取量は、10gが妥当とされています。しかしながら、平成15年の国民栄養調査では、1日あたりの平均食塩摂取量は、11.2gです。まだまだ意識が必要です。 塩分をとりすぎると、血液中に増えたナトリウムを薄めようとして血液の全体量が増え、その結果、高血庄になります。
高血圧の予防には、
1 まずは、減塩から。
高血圧の人は、1日6g未満を目標とします。血圧が正常範囲である人でも、1日10g以下を、目標にしましょう。
調味料だけでなく、加工食品を控えることも大切です。
2 腹八分目で、肥満解消
肥満は高血圧の元凶。高血圧と肥満を併せ持つ人は、体重を落とせば約8割の人に高血圧の改善が見られます。
食べすぎを控えましょう。
3 野菜や果物、豆製品を毎日
野菜や海藻などは、カリウムが多く血圧を下げる作用があるといわれています。
野菜は毎日、果物は毎日1個とるようにしましょう。
大豆は血圧を下げる作用のある大豆ペプチドやカリウム、抗酸化物質のイソフラボンやビタミンEの補給源となり、血圧が低下します。
4 肉よりお魚がおすすめ
さんま・いわしなど胴の多い魚は、中性脂肪や血圧を下げ、血栓を防ぐEPA、DHAが豊富なため、肉より魚を食べる回数を増やしましょう。
5 牛乳は1日1杯
カルシウムやマグネシウムにも血圧を下げる作用があり、1日にコップ1杯はとりましょう。
6 禁酒、節酒が必要
アルコールをよく飲む人が、アルコールを控えると血圧が下がることは色々な調査で証明されています。
お酒は、飲み過ぎないように、また、過に2日の休肝日を設けましょう。
7 ぜひ、禁煙を
たばこのニコチンや一酸化炭素は、動脈硬化を進め、血圧を上げます。
また、軽い運動をすると、血流がよくなり血圧を下げます。毎日、軽い運動を習慣づけましょう。
○高脂血症とは、
高脂血症の診断基準
総コレステロール(TC)
220mg/dl以上
中性脂肪(TG)
150mg/dl以上
LDLコレステロール
140mg/dl以上
HDLコレステロール
40mg/dl以上
血液中の脂質であるコレステロールや中性脂肪などが、正常より多い状態で、増えすぎたコレステロールは、血管の壁にたまって血管を詰まらせ、動脈硬化を引き起こします。 遺伝的な体質や肥満、食べすぎ、運動不足、長期の飲酒などが、高脂血症の原因になります。 意外に見落としがちなのが、更年期の高脂血症です。女性は、更年期になるとコレステロール値が上がりやすいので注意が必要です。
高脂血症の予防には、
1腹八分目で肥満解消。
食べすぎには注意
2 肉より魚・大豆製品を
肉には、飽和脂肪酸が多く、コレステロールを増やし、魚には、不飽和脂肪酸が多くコレステロール値を下げます。
コレステロールを下げるブームになった「リノール酸」は、脂肪酸の一種でn-6系です。N-6系はLDLコレステロールとHDLコレステロールを下げてしまうため、過度の摂取は厳禁です。
n-3系は魚などに多く含まれ、血液をとおりやすくする働きが、また、オリーブ油などはLDLコレステロールを下げる働きがあります。
大豆のたんばく質は、血中脂質を改善します。
3 ビタミンE・C・カロチンを
ビタミンEやC、カロチンは、コレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化を進めにくくします。
4 コレステロールを多く含む食品を控える
1日のコレステロール量を300mg以下にしましょう。
特に、鶏卵は1回量や食べる回数などを控えましょう。
5 食物繊維をしっかりと
食物繊維は、胆汁酸とくっついて排泄されるため、胆汁酸のもとになるコレステロールを減らしてくれます。
食物繊維の多い野菜やきのこ、海藻、こんにゃく料理をしっかりと摂りましょう。
6 アルコールやジュースにも注意
アルコール、菓子、ジュースなどをとりすぎると、中性脂肪を高めます。
7 ぜひ、禁煙を
喫煙は、HDLコレステロール(動脈硬化を抑えるコレステロール)を減らし、動脈硬化を進めます。
8 運動の習慣を
散歩など、適度な運動をしましょう。
運動は、HDLコレステロールを増やす働きがあります。
○糖尿病とは、
糖尿病の診断基準
1
早朝空腹時血糖値
126mg/dl以上
2
5gOGTT・2時間値
200mg/dl以上
3
随時血糖値
200mg/dl以上
4
早朝空腹時血糖値
110mg/dl未満
5
75gOGTT・2時間値
140mg/dl未満
・1〜3のいずれかを満たすものを「糖尿病型」
・4、5の両者を満たすものを「正常型」
・どちらにも属さないものを「境界型」
膵臓から分泌されるインスリン不足、あるいはインスリンの作用障害によって高血糖が続く状態をいいます。
これを放っておくと、目や腎臓の障害、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。 高血糖は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きが低下して起こります。 インスリンの働き以上に過食すると、血中の糖分が利用されずに残り、尿に混じって出ていきます。 膵臓から分泌されるインスリンの働きに見合った量の食事をしていれば、糖分は十分に利用され高血糖を防ぐことができるのです。
糖尿病の予防には、
1 腹八分目で適正体重に
自分の体に合ったエネルギー量の摂取が大切です。
2 3食きちんと、規則正しく
まとめ食いは、1度にたくさんのインスリンが必要になり、膵液に負担をかけます。
朝・昼・夕の3食をバランスよく、時間も決めて規則正しい食事をしましょう。
3 よくかんで、ゆっくりと
早食いは、食べすぎになるので、よくかんで、ゆっくりと食べましょう。
4 脂肪を控える
油は、1g9kcalと高カロリーのため、エネルギー量のオーバーになりやすいので、とり過ぎに要注意です。
5 野菜、食物繊維をたっぷりと
食物繊維の多い野菜やきのこ、海藻、こんにゃく料理をしっかりと摂って、空腹感を満たしましょう。
食物繊維は、食後の血糖値が急激に上がるのを抑えます。
6 お酒はほどほどに
アルコール、菓子、ジュースなどをとりすぎると、中性脂肪を高めます。
7 ぜひ、禁煙を
喫煙は、HDLコレステロール(動脈硬化を抑えるコレステロール)を減らし、動脈硬化を進めます。
8 運動の習慣を
散歩など、適度な運動をしましょう。
運動は、HDLコレステロールを増やす働きがあります。
○肥満とは、
肥満の判定
日本肥満学会によるBMIよる判定
18.5未満
18.5以上 25未満
25以上 30未満
30以上 35未満
35以上 40未満
40以上
やせ
正常
肥満1度
肥満2度
肥満3度
肥満4度
BMI (Body Mass Index)
体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)
例)体重 60kg、身長 165cm の場合
60 ÷ 1.65 ÷ 1.65 →
BMI = 22
体脂肪率による判定
男性
20%以上
女性
30%以上
ウエスト周囲径による判定
男性
85cm以上
女性
90cm以上
エネルギーの摂取が消費を上回ることによって、体内の脂肪合成が進み、過剰に蓄積・貯蔵された状態をいいます。 肥満は、高脂血症、高血圧、糖尿病、動脈硬化、心臓病など、多くの生活習慣病を引き起こす原因となります。 肥満は、漠然と太った状態と考えがちですが、体重が普通でも内臓脂肪が多い人は、「隠れ肥満」と言って危険を伴います。
適 正 体 重 を 目 指 そ う !
もっとも理想的な体重は、BMIが22のときで、色々な疾患にかかりにくいため、標準体重と呼ばれ、身長の2乗に22をかけることで求める。
1日に必要なエネルギー量は、標準体重×25〜30kcalで算出する。
(例) 1.65(m) × 1.65(m) × 22 = 60kg
60kg × 30kcal = 1800kcal/日
肥満の予防には、
1 腹八分目で
自分の体に合った適正エネルギー量の摂取が大切です。
2 脂肪を控え、バランスよく
油は、1g9kcalと高カロリーのため、エネルギー量のオーバーになりやすいので、とり過ぎに要注意です。
3 野菜をたっぷりと
野菜やきのこ、海藻、こんにゃくなどは低カロリーなため、毎食たっぷりと摂って、空腹感を満たしましょう。
4「まとめ食い」や「早食い」はやめる
朝食を抜き、夜たっぷりと「まとめ食い」をすると、空腹時間が長くなり、摂取したエネルギーを貯蔵にまわそうとする体の適応反応がおこります。 食事の時間帯が不況則で夜型になりがちな人は、空腹時にクッキー1枚でも、お腹に入れることが大切です。
また、満腹感を生ずるまでには、食事を始めて20分ほどかかるため、「早食い」をすると、つい食べすぎすぎてしまうので、食事をゆっくりと味わうことで、満腹感を待ましょう。
5 濃い味つけはやめよう
濃い味付けは食欲が増し、食べすぎのもとになるので、薄味に慣れましょう。
6 アルコールはほどほどに
アルコールは、1g7kcalあります。エネルギー量のオーバーになりやすいので、ほどほどにしましょう。
7 運動の習慣を
散歩など、こまめに体を動かし、エネルギーを消費しましょう。
○たばこについて
たばこは、「百害あって一利なし」と言われ、癌、動脈硬化、慢性気管支炎など、体にさまざまな悪影響を及ぼします。
た ば こ の 害
ニコチン
わずか7秒で煙の中のニコチンが肺に入り、毛細血管から吸収されて、全身に運ばれ、脳に達し、自律神経を刺激して、血管を収縮させる。
タール
一般に「やに」と呼ばれる物質
タールの中には、発ガン物質が含まれる。
一酸化炭素
一酸化炭素が体に入ると酸素より早く赤血球と結合してしまい、脳をはじめ、全身に運ばれて酸素量が減り血管壁を傷つけ、血管収縮で血流量も不足する。
○お酒について
お酒は、「百薬の長」と言われ、適度な飲酒は血行をよくし、血圧を下げ、冷え性や肩こりなどをやわらげます。
また、善玉コレステロールを増やす働きもあり、血栓をできにくくしています。
最近では、動脈硬化を防ぐ効果があるお酒として、ポリフェノールという赤色色素を多く含むワインが話題になっています。
ただし、飲みすぎは禁物です。肥満にもつながりますので、気をつけましょう。
○運動について
肥満を解消するために、食事を減らして摂取エネルギーを抑える方法もありますが、極端な減量は、体脂肪だけでなく、筋肉や組織も一緒に減らしてしまい、体力が低下してしまいます。 健康的にやせるには、食生活にも気を遣いつつ、体を動かして消費エネルギーを増やすのが望ましいことです。 私たちの生活では、消費エネルギーに比べ摂取エネルギーが300kcalほど多いと言われています。これを消費するために、一日一万歩必要となります。
以上、動脈硬化の危険因子について、それぞれをお話させていただきましたが、どの生活習慣病の予防にも重複していると感じられたと思います。 要するに、適度に運動して標準体重を維持し、食事はバランスよく摂りましょうということに尽きると思います。 バランスよく摂るためには、どうしたらよいかと言うことになりますが、現在、広島県栄養士会では、「栄養3・3運動」を提唱しています。 一日3食、赤・黄・緑の3色の食品を組み合わせて望ましい食習慣を実践し、健康長寿をという運動です。
3食
3色
栄養バランスがとれた食生活は、生活習慣病になりにくいからだを作ってくれます。 食生活の基本は、主食(ご飯などの穀類)・主菜(魚や肉、卵、大豆製品)・副菜(野菜など)・汁物の組み合わせで栄養素のバランスがとれます。 毎食、この組み合わせで食事をとり、一日のどこかで乳製品や果物を食べれば、自然に多種類の食品をとることができます。 また、よく噛んで、ゆっくりと、食事をすることも大切です。
では、本日の脳卒中予防の食生活について、まとめますと次の表のようになります。
今日から、脳にいい生活
・暴飲、暴食をさけ、太りすぎに注意
・塩分を減らそう
・コップ一杯の水をこまめに飲もう
・青魚、緑黄色野菜と食物繊維をまめに摂ろう
・禁煙と、お酒はほどほどに
・十分な睡眠と休養を
・ストレスをためないようにリラックス
・散歩や適度な運動を
・入浴はぬるめの温度で長湯はしないように
昨今では、情報が氾濫していますが、それに惑わされず、思い込みや勘違いのないように、正しい知識をとりいれ、迷ったときは、 かかりつけ医や栄養士に相談し、一歩一歩改善していくようにして、何よりも楽しく、また美味しく食事をし、元気で長生きをいたしましょう。
ご清聴ありがとうございました。
(
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講演当時の役職です)
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