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【講演】 脳卒中後のクスリについて
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山中千恵 中国労災病院脳神経外科 山中千恵

●はじめに

 脳卒中を起こした後、病院からいろいろなクスリを飲むようにいわれます。はたしてどのようなクスリがあり、 どのように飲んだら良いのでしょう。また、どういったことに注意すれば良いのでしょうか。 今日の講演では、私たち医師が、脳卒中を起こした患者さんに処方して飲んでいただくクスリの中で、 代表的なものをご紹介し、注意すべき点についてお話します。

●脳卒中後によく処方されるクスリ

1)脳循環改善薬
 脳の血管を広げて、脳の血流を良くするクスリです。脳梗塞にも脳出血にも使います。通常発症から数週間たって、 脳の状態が落ち着いた頃から処方されます。クスリの効果としては、脳の血流が悪いために起こる、頭痛、めまい、ふらつき、 耳鳴りなどの症状を改善する働きがあります。ただし、障害を受けた脳の組織を再生するわけではないので、 急に症状がとれるといった飛躍的な効果は期待できません。効果があったと自覚する患者さんの数が少ないため、 最近いくつかのクスリは製造されなくなっています。
 比較的よくみられる副作用には、胃腸の調子が悪くなる、口が乾くといったものがあります。
 皆さんがよく病院でもらうクスリの名前としては、オイナール、カラン、ケタス、サアミオン、トレンタール、ニバジール、 ヒデルギン、ペルジピン、ユベラニコチネートなどがあります。

2)抗血小板薬
 脳梗塞(脳血栓、脳塞栓)を予防するクスリです。効果としては、血液中の血小板の働きを妨げて、血栓を作りにくくする作用があります。
 副作用は少ないのですが、じんましんが出たり肝障害を起こすことがあります。
 内服している場合の注意点としては、出血が止まりにくくなるので、何かの手術を受ける時はもちろんのこと、 抜歯や処置、特殊な検査(内視鏡、カテーテル検査など)を受ける際には、事前に医師に相談することが大切です。 また、交通事故などの不慮の事故にあった場合も、時間がたって内臓に出血が続くことがあるので、 軽いけがでも念のために病院を受診して、クスリを飲んでいることを医師に話しておきましょう。
 代表的なクスリとしては、パナルジン、アスピリン、ミニマックス、小児用バファリン(少量でよいため小児用を使用) などがあります。

3)抗凝固薬
 主に脳塞栓(心臓からの血栓による脳梗塞)を予防するクスリです。心房細動などの不整脈があると、 心臓の中に血栓ができて脳に飛び、脳梗塞を起こすことがあるので、抗凝固薬でこの血栓を溶かします。
 副作用としては、皮下出血など出血しやすくなることや肝障害があります。先ほどの抗血小板薬と同様に、 出血が止まりにくくなるので、手術、処置、検査を受ける前や、怪我をした時には医師に相談してください。
 よく使われるのがワーファリンで、医師が血液の固まり具合をみながら処方する量を調整して処方しています。 納豆の成分がクスリの効果を妨げるため、食事内容に注意しましょう。

4)抗けいれん薬
 比較的大きい脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血を起こした患者さんのうち、10〜20%の人が、 その後にけいれん発作を起こすといわれています。けいれん発作は突然起こり、 多くの場合意識を消失して倒れて頭を打ったりすることがあるので大変危険です。 そこでけいれん発作を起こす可能性がある患者さんには、けいれん発作を予防するために抗けいれん薬を処方するのです。
 副作用としては、眠気、ジンマシン、肝障害などがあります。発作を起こすと運転を誤りますし、 クスリを飲むと眠くなることがありますので、けいれん発作を起こす危険のある患者さんや、 抗けいれん薬を飲んでいる患者さんは、車を運転してはいけません(道路交通法第88条)。
 抗けいれん薬は定期的に一定量のクスリを飲んでいないと、血中濃度が低くなり発作を起こしやすくなります。 また、風邪をひいたり睡眠不足になると、きちんと飲んでいてもクスリの吸収が悪くなり、効かなくなることがあるので、 体調を崩さないように気をつけましょう。
 抗けいれん薬にはいろいろな種類があります(バレリン、デパケン、セレニカ、セレブ、ケウセグラン、マイソリン、 アレビアチン、フェノバール、リボトリール、テグレトール、マイスタンなど)が、いずれも時々血中濃度を測定してもらい、 有効な量を飲むことが大切です。

5)その他のクスリ
 脳卒中の原因となる動脈硬化に関連した危険因子として、生活習慣病が最も注目されています。 そこで、脳卒中の再発を防ぐためには、生活習慣病の治療が非常に重要です。
 とくに高血圧、糖尿病、高脂血症は動脈硬化を進展させるので、それらのクスリを飲むようにいわれたら、 きちんと飲んで治療しましょう。もちろん、クスリだけでなく、食事療法、運動療法、喫煙しない、飲酒をひかえる、 といったことも、生活習慣病の予防や治療に必要です。

●クスリで気をつけること

 脳卒中後にクスリを飲む場合、長い期間飲むことになるので、以下のような点に注意する必要があります。

1)医師の処方どおりにきちんと飲むこと:とくに症状がないからと途中で勝手に止めたり、 1回飲み忘れたから次に2倍飲めばいいというように、自分で勝手に調節してはいけません。 クスリは有効な血中濃度が必要であるとか副作用といった問題があるので、医師の指導に従いましょう。

2)脳卒中により、運動マヒや視力障害、嚥下障害などの神経症状があって、クスリが飲みにくい場合、 介助してあげる人はきちんと飲めたかどうか、口の中を覗いたりして確認しましょう。 いつまでも口の中に残っていることがあります。

3)患者さんに記憶障害や痴呆症状があると、クスリを飲んだかどうかわからないことがあるので、 家族の方がクスリを飲んだかどうかの確認やクスリの量を管理してあげましょう。飲み忘れたり、 重ねて飲んだりすると危険です。

4)どんなクスリでも副作用を起こす可能性があります。何かおかしいと思ったら、すぐに主治医に相談しましょう。 また、他の病院でもらっているクスリと相互作用を起こすことがあるので、自分が何のクスリを飲んでいるか、 必ず主治医に報告しておきましょう。また、突然事故などにあい病院を受診することもあるので、 いつも飲んでいるクスリは、1回分を必ず持って歩きましょう。

 以上のことに注意して、脳卒中を再び起こすことがないように気をつけましょう。
講演当時の役職です)

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