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【講演】 脳卒中とその現状
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山根 冠児 山根 冠児  中国労災病院 脳神経外科

1.脳卒中とは
 脳卒中といいますのは、漢方医学の用語がそのまま残ったものです。「卒」とは、突然に何かが起こることを、「中」とは、何かにあたることを意味しています。 したがって、脳卒中とは突然に手足の麻痺や言語障害が出たり、意識が悪くなったりすることを表現しています。その後現代医療の進歩により、脳卒中には全く異なる2つの病態があることがわかってきました。 一つは脳の血管が詰まる病気(脳梗塞)で、もう一つは脳の血管が破裂する病気(くも膜下出血と脳内出血)で、この2つの病気を一緒にして、「脳卒中」といっています。
 平成15年度の厚生労働白書によりますと、最近では病気で死亡する原因はガンがもっとも多く、ついで心臓病で第3位が脳卒中となっています。 最近の傾向では、脳卒中で死亡する人はガン、心臓病で亡くなる人が増加しているのに比べて減少しています。これには食事を含めた生活習慣の改善や医療の進歩が貢献していると思われます。 しかし、発症数でみますと、脳卒中で発症する人はガンや心臓病より多く、依然トップを占めています。

2.脳梗塞について
 脳の活動は脳に分布する動脈からエネルギーの補給を受けることでおこなわれています。この脳に分布する動脈が詰まり脳へエネルギーの供給ができなくなると脳が機能できなくなり、脳梗塞になります。いったん脳梗塞を起こしますと元には戻りません。
2−1 脳梗塞の症状
 脳梗塞の症状は脳梗塞を起こした場所によって決まります。一般的な症状は手足の麻痺、しびれ、ろれつが回らない、言葉が出ない、意識がおかしいなどがあります。 また、麻痺などの症状が出ても短時間で治る「一過性の脳虚血発作」という特別な状態があります。しかし、治ったからといって安心してはいけないのです。脳梗塞をおこす一歩手前である場合があるからです。 従って、直ちに脳神経外科や脳卒中科などで適切な診断と治療を受ける必要があります。
2−2 脳梗塞を起こす原因
 脳梗塞を起こす原因は血管が詰まる、あるいは狭くなること(狭窄)で、大きく分けて、3つの起こしやすい場所があります。まず頚部にある大きな血管(頚動脈)、頭蓋内の大きな血管、それと小さな血管です。このうち、最近では大きな血管が狭窄あるいは閉塞することによる脳梗塞が多くなってきました。
2−3 頚部の動脈(頚動脈)の狭窄
 脳に行く血管は頚部で分かれ、「内頚動脈」となって脳に分布します。最近では、この内頚動脈が頚部で狭くなって脳梗塞を起こすことが多くなり、問題となっています。 この狭くなる原因は動脈硬化によるもので、血管壁の内側が厚くなり血管の中に突出するために血管が狭くなります。 脳の外にある動脈の狭窄でなぜ脳梗塞を起こすかといいますと、一つは狭くなることで血液の流れが悪くなり、脳へ送る酸素が不足すること、もう一つは狭くなったところに血のかたまり(血栓)ができて、それが剥がれて血液の流れに乗って脳の血管を詰めてしまうことがあるからです(図1)。 多くはこれが原因です。
図1 図2 図3
2−4 内頚動脈の狭窄に対する治療
 多くは薬の内服でいいのですが、薬を飲んでも狭窄が進行するとか、すでにかなり狭くなっている場合は、外科的治療が必要となります。 手術の方法は簡単に言いますと厚くなった内膜を切って取るという「頚動脈内膜剥離術」を行います。手術の細かい方法については誌上では割愛致します。
 内頚動脈狭窄に対する内膜剥離術の適応は、狭窄度、狭窄部位の性状、全身合併症、年齢などによって決まります(図2)。
2−5 バイパス手術について
 頚部の内頚動脈や脳の大きな血管が閉塞したために、脳への血液の供給が不足した場合、脳梗塞を起こしやすくなります。 脳への不足した血流を改善させるために、頭皮の血管を脳の血管につないで脳への血液の供給を増やすことを目的にしたバイパス手術が必要になることがあります。図3(バイパス手術)

3.脳内出血
 脳の中の小さな血管が破裂し脳の中に出血する病気です。中高年になりますと動脈硬化により血管がもろくなります。高血圧、糖尿病などをもっているとさらに動脈硬化の進行が早くなって血管が破裂しやすくなります。 また、ストレス、疲れ、睡眠不足などが出血を起こすきっかけになります。
3−1 脳内出血の治療
 脳内出血の治療は小さな出血では薬による血圧のコントロールを中心とした治療でいいのですが、大きな出血になりますと脳の中に出血した血液を外科的に除去する手術が必要になります。
3−2 くも膜下出血
 脳の動脈のこぶ(これを動脈瘤といいます)ができて、破裂するとくも膜下出血をおこします(図4)。
図4
3−2−1 くも膜下出血の症状
 突然の後頭部の強い痛み、吐き気、嘔吐、意識障害、片麻痺
3−2−2 くも膜下出血の診断
 頭のCT検査でわかりますので上記の症状があれば頭部CT検査を行う必要があります。
3−2−3 くも膜下出血の治療
 治療は外科治療が最も確実です。手術はクリッピング手術といって、破裂した動脈瘤の首根っこをチタン製のクリップでつまんで再び破れないようにすることです(図5)。
図5

4.破裂する前の脳動脈瘤
 くも膜下出血をおこした場合、入院時に意識が悪いと手術がうまくいっても予後が悪くなることがあります。 したがって、脳動脈瘤をまだ破裂しないうちに発見し、手術をして破裂するのを防ごうという治療が長近多く行われています。脳動脈瘤は、脳ドックなどで行われているエムアール(MR)検査で見つけることができます。

5.脳卒中に対する早期リハビリテーション
 脳卒中の後遺症の多くは、上下肢の麻痺、言語障害、知覚障害です。後遺症をできるだけ少なくするように早期から機能訓練をすることが重要です。 リハビリテーションの目的は日常生活の自立、在宅や、職場復帰への指導、運動機能訓練、言語訓練をおこない、できるだけ脳卒中を起こす前の状態に近づけることです。

6.脳卒中の予防
 予防が最も大事です。そのためには生活習慣や食生活の改善、もともと持っている高血圧、高脂血症、糖尿病、心疾患などの脳卒中を起こしやすい基礎疾患の治療をしっかり行うこと、 脳と脳の血管の定期的な検査(MR、CT、超音波検査、脳血流検査など)を行っておくことです。

7.介護の問題
 現在、脳卒中になってしまった場合、まず医療保険制度で病院で適切な治療を受けます。その後、症状が安定した時期に入りますと、介護保険制度を利用して在宅、あるいは介護施設で介護サービスを受けることになります。 介護保険制度の利用は一般的には65歳以上ですが、脳卒中による障害の場合に高齢者人口の推移は40歳以上が対象となります。
1)高齢化社会への加速(図6)
図6

 一般に65歳以上の高齢者が人口に占める割合が14%を超えると高齢化社会といわれております。2005年の日本では、65歳以上は人口のほぼ20%に達しており、すでに高齢化社会になっております。 今後団塊の世代が高齢化してゆくために、急速に高齢化が進むものと考えられます。一方で少子化が加速しているため、介護を必要とする障害者の世話をする人口が減少することは明白です。 さらに世話をする人自体が高齢化することが問題となってきます。このままでは介護保険制度は維持が困難になってきます。この間題の解決策として介護制度の見直しが始まっております。 一つは、介護が必要になる人口を減らすこと、このためには高齢者が介護が必要となる前の段階でできるだけ自立した生活を送れるように支援すること。もう一つは介護保険利用費の削減が柱になっております。 しかし、これらの政策は抜本的なものにはなっておりませんので、今後高齢者を取り巻く環境は厳しいと考えられます。高齢者自らも自立した生活をできるだけ長くできるように、また地域社会としても自立するための支援活動が必要と考えられます。 さらに障害者になることを想定してあらかじめ対策を考えておくことも大切なことと思われます。

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